「いい記事を書くね」と言われることが、かつては励みだった。だが今は、その言葉を追い求めようとは思わない。真実に近づき、言葉にならない思いまで文字にできれば、それで十分だ▼取材には機微がある。相手を見る力がなければ、大切なものに気付けない。声の調子や視線の揺れ、沈黙の長さ。言葉以上に雄弁なものは少なくない。事実だけでなく、その奥にある思いをくみ取り、行間を読む力が記者には欠かせない▼だからこそ、洞察力を磨き続ける。本を読み、人に会い、失敗や葛藤を重ねる。人の痛みを知らなければ、喜びも深く書けない。取材は相手を知る営みであり、自分を問い直す営みでもある▼この仕事は喜びばかりではない。思うように話が聞けず、力不足を痛感する日もある。それでも、一文が誰かの琴線に触れ、「あの記事はよかった」と言われた瞬間、苦悩は報われる▼乗り越えた先にあるのは、評価ではない。人の人生と実直に向き合い、社会を少しでも深く見つめる。目の前の一人、一つの出来事に誠実であり続ける。その積み重ねこそが、「記者とは何か」という問いへの、自分なりの答えなのだと思う。










