共創・革新・環流・13/JICA/日タイ学び合いによる地域活性化

2026年7月22日 共創・革新・環流

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 タイでは2020年代初頭に高齢化率が14%に達し、高齢社会に突入した。日本は既に約30%相当の超高齢社会となっているが、タイは日本を上回るスピードで同じ課題に直面しつつあり、国連の推計では30年に高齢化率が21%を超え、超高齢社会に突入するといわれている。さらに地方からの人口流出も相まって、地域衰退への懸念が高まっている。
 こうした課題に対応するため、国際協力機構(JICA)は24年11月、「持続可能な地域活性化推進能力強化プロジェクト(通称LOREP)」を開始した。タイ内務省地方自治体振興局(DLA)をカウンターパートとして3年間の予定で実施され、タイの四つの地方都市を対象に、日本からは宮城県東松島市、山梨県北杜市、沖縄県名護市などの自治体が参加し、雇用創出・収入向上、高齢者の生活の質向上、若者のUターン促進の3分野に取り組む。
 本プロジェクトの特徴は、両国間の幅広い関係者による「共創」そして新たな解決策の「環流」の視点を取り入れている点にある。両国の自治体や産官学民が地域活性化に関わる知見・経験・人材を共有し、学び合いを深めることで既存の地域資源を活用した新たな価値や魅力発信方法など地域活性化のイノベーションを「共創」する。さらに、そのイノベーションを日本や他の国々に広める「環流」を生み出すことを目指している。
 既に昨年11月の日本視察を契機に、タイ各地で地域活性化の取り組みが具体化しつつある。視察先の一つである東松島市の道の駅では、同市に拠点を置くブルーインパルスを地域のアイデンティティーとした、ブランディングと商品開発が行われている。
 これに着想を得てスパンブリ市(対象都市)ではランドマークであるバンハンタワーを地域アイデンティティーに設定。地元高校生の手によるキャラクターをブランディングや商品開発に活用する取り組みが進められている。
 また、高齢者の生活の質向上に関しては、日本の知見を参考に、高齢者デイサービス導入の検討が進むとともに、介護予防の「百歳体操」のタイ版が作成された。行政による動画配信も始まり、各高齢者センターでの導入が進み、担当者からは「日本の体操は、タイの体操で不足していた筋力維持・強化の要素が多い」と高く評価されている。
 一方、視察を受け入れた日本の自治体でも、タイとの相互訪問を契機に、新たな地域活性化イノベーションの芽が生まれている。クラビ市(対象都市)の高校生による軽快なトークを生かした観光ガイド手法は、名護市「わんさか大浦パーク」にとって大きな刺激となり、その導入に向けてタイ側とのオンライン勉強会の準備が進んでいる。
 福祉分野においては、日本のような介護保険制度を持たない中でも、地域コミュニティーの連携により高齢者のケアや福祉教育が進んでいるタイの仕組みに日本側の関係者の関心が高まっている。名護市ではタイでの学びを参考に、地域の住民同士のつながりを生かしたケア体制の推進が検討されている。
 一方で「共創」や「環流」の難しさも浮き彫りになっている。タイと日本の関係者が同じ課題に向き合い、互いの経験や強みを生かして地域活性化のアイデアを生み出すためには、「共創」や「環流」を実現する前提として、対等に学び合う場を構築することが不可欠である。しかし、そのような場を築くのは容易ではない。地域ごとにニーズや関心が異なる中、特に日本側にとっても意義ある学び合いをどう生むかが課題となっている。
 こうした中で動き始めたのがオンライン学生交流だ。タイ側から、若者のキャリア形成の一環として両国の学生のオンライン交流が日本側へ提案された。すると日本側も「グローバル人材育成」という観点からこれに応じ、本格的な交流が始まった。
 交流の目的や内容は学校同士が主体的に話し合って決めており、単なる語学力向上の目的を越えて、地域の魅力発信やキャリア形成、異文化理解を深めるための意見交換・相互理解のツールとして英語が活用されている。昨年度はタイ16校、日本5校が参加した。こうした取り組みは、中長期的に若者の地元定着や地域への愛着を生むことにもつながると期待されている。
 さらに、北杜市では、タイの高齢者グループとつながるオンライン交流も好評を得ている。参加者からは「外国の方と初めて話すことができて感動した。タイのダンスが見られてうれしかった」「自分たちの百歳体操をタイの方に見てもらえて励みになった」とのコメントが多くあった。会議ツールの翻訳機能などを活用することで言語の壁を越えた対話が実現し、高齢者にとっての非日常や生きがいの創出にもつながっている。
 タイの少子高齢化の状況は、二十数年前の日本の姿と重なる。地方衰退の初期段階から、日本の知見をヒントにタイ独自の地域活性化が進むのであれば、その進行に歯止めをかけるきっかけとなり、日本とは異なる、地方の未来が創造される可能性もある。
 また、少しずつではあるが、タイとの関わりにより、日本の地域にも今までとは違った地域活性化の芽が育まれつつある。日タイ両国の学び合いを通じた地域活性化の取り組みは、将来的に他国への展開も期待される協力モデルとして、その発展が期待される。
 (タイ「持続可能な地域活性化推進能力強化プロジェクト」専門家 平林淳利、JICA社会基盤部都市地域開発グループ第一チーム 關つぐみ)