内閣府民間資金等活用事業推進室は、PPPの取り組みとして、官民出資の共同事業体(LABV)方式の活用を促すための解説書をまとめる。土地といった公有資産を現物出資する地方自治体などと、資金出資する民間事業者が設立したLABVが、施設を連鎖的に整備や運営していくような事業への適用を想定。解説書にポイントや留意点を整理し、理解を促す。同方式の事例は山口県山陽小野田市と佐賀県上峰町の事業の2件にとどまっており、行方が注目される。
同方式は、英国発祥のまちづくり手法の一つ。LABVが複数の事業の設計・建設・維持管理・運営を進める。出資に伴う配当(収益)が得られる。老朽化した複数の公共施設の更新や再編、遊休地と施設再編後の跡地の活用が課題の自治体は多い。予算の制約や職員不足から、対応が遅れている地域がある。民間資金等活用事業推進室は、そうした地域の課題を解決しながらまちづくりを進める手法としてLABVの活用を促したい考え。
解説書には一部の施設が開業から1年を迎えた山陽小野田市の「LABVプロジェクト」をモデルに、優位性、基本スキーム、事業を実施する上でのポイント、留意点をまとめる。今夏の策定を目指す。
4月に解説書の案を公表した。優位性の一つには、土地といった公有資産を自治体などが現物出資するため、民間が用地取得の資金調達コストを抑制できることを挙げた。自治体などは出資者となってLABVに入るので、計画の具体化や重要事項の決定に関与できる。案は「公共性が担保されやすい」と記載した。
個別の土地開発からの収益だけでなく、事業全体の価値を重視することになるため、「社会的便益の最大化を図ることが可能」との見解も示した。事業計画はLABVの構成員が情勢などを踏まえ、その都度作成・実行することになり、案は柔軟な事業運営と計画の見直しも優位性に含めた。
英国のLABVは、官民出資の割合を50%ずつとするのが基本。案のポイント・留意点では、出資割合に関して「特に決められたものはない」とした上で、現物出資に応じた資金出資を民間に求めるのは「ハードルが高くなることが懸念される」とした。会社の形態は、定款を定める合同会社が望ましいとしている。
LABV方式は、次の開発など将来の計画を定めずに事業を遂行するのも特徴となる。そのため案は、決まっていないことに対する「行政や議会の理解と許容が不可欠」と強調した。自治体の場合は議会対応が特に重要になることや、民間の収益性を考慮した事業の組み合わせと事業の順序の設定をポイントに挙げた。
一般的なPPPは発注者と受注者の関係が生じるのに対し、同方式は官民双方のエンゲージメント(自発的な貢献意欲)や、人事リスクの考慮が事業の継続性を高めるという見解も示した。モニタリングの機能などを期待し、金融機関と早い段階から連携する必要もあるとした。
案は、4月30日のPFI推進委員会事業推進部会に示された。委員からはさまざまな指摘が相次いだ。未決定の事業を含めて実施期間が長くなることもあって、公共サービスを提供するに当たっての遂行能力が乏しくなった事業者の入れ替えや、住民ニーズから乖離(かいり)した事態、事業の清算への対処なども必要という意見が多く出た。
PFI方式は施設整備費をプロジェクトファイナンスで支払うことから、融資のプロセスを巡る議論を求めた委員もいた。想定される懸念事項を列挙したり、第三セクターの債務処理が社会問題化した経緯から「やらない方がいいこと」を示したりするよう求める意見も出た。
山陽小野田市のLABVプロジェクトは、市が現物出資する3カ所の公有地と民間の事業用地で約40年超にわたって連鎖した面的な事業が実施される。築40年の商工センターがあった市有地には、同市と事業パートナーが設立した合同会社が市民活動センター、商工会議所、銀行、学生寮などの複合施設「Aスクエア」(RC造5階建てとS造3階建て総延べ4843平方メートル)を整備した。4月に供用から1年となった。現在3カ所で開発事業の計画検討が行われている。
市と民間の出資比率は85対15。民間(8社)の資金出資の規模は商工センター用地の簿価を大きく下回る。市は公共性を担保するための「限定的議決権」を持つが、経営には関与せず、利益を受け取らない。
「人口減少でも持続可能なまちづくり」をモットーとする藤田剛二市長は、市が採用したLABV方式の狙いについて「良い空間へ、みんなで協力してまちを育てたいと考えた」と話す。
前例がなく、将来の不確実性が大きいだけに、現物出資のための議会審議はたびたび紛糾したが、藤田市長の意志とリーダーシップの下、関係部局が対応に奔走した。行政、市議会、民間それぞれが、未決定の計画を含めた「あいまいな公共性」を許容することで現在に至っている。
解説書の策定に当たり民間資金等活用事業推進室は、委員の指摘を踏まえて内容の追記を検討する。政府の地方創生が進む中、LABV方式は地域の課題解決のツールとして期待されるが、山陽小野田市は特異な事例でもある。各地の事業は「首長の覚悟」(藤田市長)とともに、解説書に載せきれない対応が進行を左右することになりそうだ。