日本建築士会連合会(士会連合会、古谷誠章会長)、日本建築士事務所協会連合会(日事連、上野浩也会長)、日本建築家協会(JIA、佐藤尚巳会長)、日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)、日本建築学会(竹内徹会長)の建築関係5会が14日、「国際的で魅力ある次世代の建築職能人材の育成に向けた提言」を発表した。国内の建築学生が卒業後に海外でも活躍できる環境を少しでも広げ、海外で建築を学んだ人材が日本国内でも広く活躍できる環境を整備。次世代の人材にとって建築に関わる職能が魅力的であり続けるため、各団体が連携し戦略的に取り組むべき喫緊の課題に対する提言をまとめた。=1面参照
提言は▽国際化対応へ向けた関係諸団体の一層の連携強化▽日本の建築界および専門職能の魅力の維持・発展▽1級建築士資格制度の将来像▽建築教育と産業界での実務との接続の在り方▽建築教育の国際通用性向上▽国際協定傘下の教育プログラム修了生の資格制度における扱い-の6項目で構成する。
国際化への対応は関係団体一丸で対応すべき喫緊の課題に据えた。日本では建築設計に関わる団体が複数あり、各団体の会員加入率は決して高くないとした上で、職能代表として国際的なプレゼンスを十分に発揮しているとはいえないと指摘。今後の生産年齢人口の減少に伴い人的資源が分散しないよう、国際化対応へ向けて関係諸団体が連携し一丸となって取り組むことが重要であるとした。
日本の建築界やそこで働く専門職能が、将来にわたり魅力的であり続けることは、次世代の人材を確保するために重要なテーマと位置付けた。アーキテクトとエンジニアを包括した国家資格「建築士制度」の強みを生かし、新しい技術や業務内容を反映した専門職能像へと発展させる。その魅力を幅広く継続的に発信、広報していけるよう関係団体が連携して取り組む。
建築設計に関わるサービスが国・地域の境界を越えて提供される時代になっている。建築士制度が他の国・地域のアーキテクト資格と相互認証されることによる国際的な信用性の獲得は今後、日本の建築学生が卒業後に国内外問わず活躍できる可能性を広げるために重要な要件となる。
1級建築士資格は、アーキテクトとエンジニアを包括したベースの資格として維持するとともに、今後は国内の生産年齢人口の減少やグローバル化の進展などに照らして国際的な信用性を増進するための対応方策を検討する必要があると指摘した。
近年の就職活動の実態を見ると、従来の採用活動の流れが現在の学生ニーズとかみ合わず、就職活動の早期化と長期化をもたらし、学修機会の損失原因となっている。このような状況は企業にとっても有望な人材を採用する機会を失っている可能性がある。
2020年施行の改正建築士法により建築士試験の受験機会が早期化し、学部卒業の翌年から受験が可能となった。これにより在学中の大学院生も建築士試験が受験できる。就職活動の早期化と長期化に加え、就職活動が終わると受験準備に注力する状況が生まれるなど、大学院教育の空洞化を懸念。法改正時に提示された建築士人材の持続的かつ安定的な確保という目的が達成されたか検証した上で、試験の内容や形式、水準について必要な改善を行い、次世代を担う人材をしっかり確保、育成していく必要性を指摘した。
国連教育科学文化機関(UNESCO)/国際建築家連合(UIA)建築教育憲章に準拠した建築教育が多くの国で実施されている。日本では日本技術者教育認定機構(JABEE)が、19年に同憲章に準拠した建築教育を相互認証する「キャンベラ協定」に正式加盟。だが同協定の認定大学は極めて少ないのが実情だ。
将来の日本の設計者が不利益をかぶったり、国際的に孤立したりすることを懸念。そこで建築士制度の改革に合わせて相互の整合性を高め、建築教育の国際通用性の向上のための方策を検討すべきとした。
国際化が進む中、国・地域のボーダーを超えて若手人材の育成が適切に実現することは、日本の建築界(建設業や建築設計業)が国際的な競争力を持ち続けるためにも重要となる。建築士制度に関わる扱いも、国・地域のボーダーを超え移動する際、適切に機会が付与され、対外的に説明可能な形で対応が図られるよう関係機関間での協議を進めるべきと提言した。
□代表者が会見/「日常的に議論できる関係に」□
建築関係5団体の代表者が14日、東京都港区の建築会館で共同会見を開き、次世代の人材育成に向けた提言内容や今後の展望などについて語った。
士会連合会の古谷会長は現行の建築士制度が機能しているとした上で、「製図試験は曲がり角に来ている。試験制度の在り方を考え関係官庁に働き掛けていき、日常的に議論できる関係に持っていきたい」と述べ、試験制度の改革の必要性を訴えた。
日事連の上野会長は「機関決定する中でさまざまな意見があったが、志を一つにしなければ良き人材がわれわれの業界に入ってこない。(提言は)建築界がまとまって行動できるアクションになる」とし、今後の展開に期待した。
JIAの佐藤会長は「建築士はアーキテクトとエンジニアが内在している。今回の提言は教育から資格制度、試験など広範囲にわたって日本の建築設計全般、建築物のレベルにも関わるような内容になっている」と提言への理解を求めた。
日建連の賀持剛一建築設計委員長は「人手不足の中、早く良い人を採りたいと採用活動が早期化している。提言を周知しているが、改善に向けた具体的な議論はこれから。教育界、産業界がウインウインになるような採用活動にしていきたい」と述べた。
日本建築学会の竹内会長は今後について「まずは各団体がホームページなどを通じて提言を一斉に発信する。国土交通省、文部科学省、関連団体などへの働き掛けも進める」と説明。提言内容を2年にわたり議
論してきた「産学連携建築教育懇談会」も継続し、検討を深めていく考えを示した。