建築大工をはじめとした住宅分野の建設技能者の持続的な確保に向けた施策検討に、国土交通省が本腰を入れ始めた。いわゆる「町場」の木造住宅の現場に従事する技能者を対象とした取り組み。これまで「担い手の確保・定着」という観点では、国の政策として表立って重点が置かれていたわけではなかった分野だ。「野丁場」よりも急激に担い手が減少している現状に、国交省が危機感を募らせたことが背景にある。
木造住宅・建築物の振興施策に当たる住宅局が、学識者や住宅関係団体、教育機関などが参画する「住宅分野における建設技能者の持続的確保懇談会」(座長・蟹澤宏剛芝浦工業大学教授)を2月に立ち上げた。これまで3回の会合を開いており、9月にも成果を取りまとめ、11月ごろに大枠を固める次期「住生活基本計画」への反映を目指す。
総務省の国勢調査によると、建築大工の就業者数は2020年に約30万人。直近の20年で半減した。建設業全体の中でも高齢化が著しい職種のため、将来的に担い手不足が深刻になるとの見方がある。特に、住宅建築を支える中小工務店の持続可能性を危ぶむ声が大きく、住宅の安定的な供給や適切な維持管理が困難になるとの懸念がある。
懇談会では▽入職者の増加▽職場環境の整備▽将来の見通しの整備▽生産性向上に向けた省力化・効率化-の四つの観点から取り組むべき施策を打ち出す方針だ。当面は次期住宅生活基本計画への反映を目的とするが、今秋以降も議論を継続し施策内容を深め、中長期ビジョンの策定も視野に入れる。
若年者などの入職促進に最も必要とされるのは、処遇や職場環境の改善だ。現状では最初の入り口から敬遠され、就職先の選択肢になっていない。受け入れ先となる工務店で月給制や週休2日など他産業に劣らない就労環境を整備することが目指すべき方向性の一つだ。
懇談会では、直接雇用・社員大工化へのインセンティブや補助を行うなどの提案も出ている。快適トイレの普及や体格差を気にせず作業できる工程の明確化といった女性の入職促進策も講じる予定だ。
教育訓練制度の充実を求める声も目立つ。既存制度の活用も含めた入職前に教育を受けられる仕組みの構築や、地域工務店が共同で取り組む入職後の教育の推進など、新規入職者を組織的にバックアップする必要性が指摘されている。生徒の進路選択に影響を及ぼす学校の先生と信頼関係を構築すべきとの意見も多く、建設業界と教育機関の連携強化も重要視する。
担い手を定着させる観点では、建設キャリアアップシステム(CCUS)などを活用した将来の見通しを持てるキャリアプランの整備を打ち出す。建築大工には技量やものづくりを追求する「クリエーター」と、現場で標準化されたものを作る「オペレーター」の二つの役割があり、それぞれに応じたプラン整備が必要との意見がある。プレカットが普及し現場の省力化が進む一方、現場管理やバックオフィス業務を効率化する方策も検討する。
□技能研修支援で新事業/地域工務店など災害対応力強化□
地域に根付いた住宅生産の担い手不足への懸念などを踏まえ、国土交通省は2025年度の新規事業として「暮らし維持のための安全・安心確保モデル事業」を展開している。地域の工務店などで構成するグループが災害時に備え事前実施する技能研修など、地方自治体と締結する災害協定などの内容に応じたモデル的な取り組みを費用面で補助する形で支援する。
能登半島地震を踏まえ25年度予算で創設した「住宅・建築物防災力緊急促進事業」の一部費用を充てる。初弾公募の結果を5月に公表。取り組み類型の一つで木造応急仮設住宅の設計図作成や技能習得の研修・訓練などに当たる「広域モデル策定型」で計91グループを採択した。
第2弾公募も今月以降に開始する予定。先に実施した広域モデル策定型の成果を踏まえ、恒久設置する木造応急仮設住宅や復興住宅を実際に整備するモデル的な取り組みを対象とする「地域モデル実装型」の公募も同時に行う。