商習慣を変える2-改正公共工事品確法・中/価格一辺倒の競争を見直す

2025年6月27日 行政・団体 [1面]

文字サイズ

 価格一辺倒だった公共工事の調達方法を改善し、価格だけでなく品質を加味した総合評価の導入を打ち出した公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)。2024年6月の法改正では社会や現場の課題解決に役立つ新技術などの活用を一層推進する観点で、価格だけでなく工期や安全性、生産性、脱炭素化への寄与などの要素を考慮し「総合的に価値の最も高い」ものを採用するVFM(バリュー・フォー・マネー)の考え方が明記された。
 改正法を踏まえ国土交通省直轄工事で先導的に取り組む施策の「筆頭格」となるのが、総合評価方式の新タイプ「技術提案評価型SI型(エスイチ型)」の試行だ。軽微な仕様変更を伴う提案を認めつつ、入札価格とは別枠で提案部分の費用を上乗せ可能とする。予定価格の上限拘束性という会計法の原則がある中で、SI型を「事実上、予定価格を突き抜ける仕組み」とする見方もある。
 国交省の沓掛敏夫官房技術審議官は、SI型の試行を「社会の要請に応える第一歩」と捉える。現場の生産性向上のほかにも、品質向上や環境配慮、安全対策の強化などに高い効果を発揮する技術を積極的に取り入れる考え。コストがかさむ技術も活用できる余地が生まれ、これまで難しかった民間からの発展的な提案を呼び込む。5月に試行の実施要領を地方整備局などに通知しており、対象工事の選定を経て順次入札手続きに入る。
 直轄工事の現場で先導的に行われるもう一つの試みが、元下間の労務費や技能者の賃金・労働時間の実態把握だ。19年の法改正で下請業者の労働環境や利潤・工期の確保が受注者の責務となり、発注者による実態把握を「運用指針」で努力義務化した。2月の運用指針改定で「受注者の協力の下」の文言が追加されており、元請や下請の理解を得ながら実践に移す。改正建設業法で規定された「労務費に関する基準(標準労務費)」の適正な運用を公共工事の現場で確認する手段の一つにもなりそうだ。
 国交省が実態把握の目的に据えるのは、技能者の賃金確保だけではない。元下間の工事契約で適正な労務費などを積み上げた見積もりが促され、施工可能な価格を受注者が自ら示す入札行動に転換することが狙いだ。建設業の商習慣に労働条件を順守するルールが組み込まれることで、おのずと入札時のルールも変わると期待する。結果としてダンピング受注の抑止となり、価格競争の原資として生産性の高さを競わざるを得ない状況が生まれる。
 どちらの試行も前例のない取り組みだけに、実際どのような成果を生むか見通せない部分はある。何より受注者側の積極的な参画がなければ、当初狙った効果の発揮は難しい。動き出した先に壁があれば、受発注者間で意思疎通し、その都度改善していく必要があるだろう。