東北6県の地域建設会社7社とみずほ銀行が共同出資で6月30日に「東北アライアンス建設(TAC)」を設立した。地域が直面する課題と正面から向き合い単独では難しかった価値の創造や業種を超えた連携を目指す。社長に就いた陰山正弘氏(陰山建設代表取締役)は「周囲の期待を重く受け止め建設会社、建設業界の価値を高める可能性を追求したい」と話す。
--TACが6月30日に設立を迎えた。
「新会社の設立を公表した後、予想以上の反響があった。反響が大きかった理由は将来的な経営統合があるのか、大手を含め他の建設会社と競争して規模の拡大を追求するのかなどに関心があったからだろう。結論から言えば現時点で合併や持ち株会社への移行などは考えていないし、工事受注で大手などと渡り合うつもりもない。目指すべき姿は競争ではなく共創だ」
「東北各県に拠点を置く7社が単独の会社だけを見るのではなく、より広い視野で課題を捉え対応を考える。地域に根差し事業を展開する企業ができることをより幅広に考え可能性を追求したい。建設業許可の申請、企業としての運営ルールや体制の整備などやるべきことは多い。準備が整い始動した後、事業が軌道に乗るまで2、3年は必要と考えている。大手ゼネコンの下請に入ったり、JVを組んだりするかもしれないが、周囲の期待を重く受け止めて建設会社、建設業界の価値を高める可能性を追求したい」
--地域建設業は人材不足や競争激化などで厳しい経営を強いられている。
「TACは1年半ほど前に私の頭にあった構想をみずほ銀行に話し、共感してくれたのが始まりだ。出資6社と面識はほぼなく私が各社を回り意見を交換した。その中で人材不足、生産性や利益率の向上など課題認識に共通点が多かった。単独での対処も一つの道だが、力を結集するのも道ではないかという考えに至った」
「これまでの枠組みと一線を画す以上、覚悟は必要であり意思を示すためにも新会社を設立するべきだと話した。同じ船に乗って出港する。途中で下船や乗船があるかもしれない。ただ建設7社とみずほ銀行で意識や向かう方向にズレはない。明確な目的を持って事業活動を展開し、災害など万が一の事態が起これば広域連携の利点を生かして迅速に対応するため、準備に万全を期したい」
--新会社の姿をどう描く。
「TACに出資した会社はそれぞれに強みがある。情報やノウハウを共有すればこれまでの建設会社と異なる形を作れる可能性がある。自社で開発したアプリやデジタル技術を水平展開できれば生産性が上がるかもしれないし、利益率が向上するかもしれない。1+1=2という単純な足し算ではなく、答えが10や100になる可能性がある。人材が足りない、利益率が低いと現状を受け止めるだけでなく、自ら行動し挑戦することが必要だ」
「単独で努力しつつ新たな枠組みで一歩前に踏み出す。スピードもアイデアの量も一気に変わるだろうし、技術開発などへの投資額も大きく増やせるなど、相乗効果は小さくない。強過ぎた競争意識から少し距離を置き、共創を志向する。各県、各社で状態は異なるだろうが、より広い視野で可能性を探りTACを通じて実現を目指す。各社にフィードバックできることもあるはずで、アイデアを持ち寄り大きな波を起こしたい」
「直接雇用が基本になる。その上で出資各社からの出向や転籍、ベテラン技術者のセカンドキャリア採用なども考えられる。企業ブランディングも大切でこれまでとの違いを明確にし、初めにどれだけ人を引きつけられるかで将来が変わってくる。大学生に声を掛け素案作りを始めている。地元や地域、エリアのポテンシャルに気付き、やれるべきことをしっかりやっていく。共創型オープンプラットフォームとしてTACに成長性を見いだす」
--今後への思いを。
「土木や公共工事を除外するわけではないが、まずスタートは民間建築が主になるだろう。みずほ銀行は東北6県全てに支店がある。さらに言えばTACの出資会社も各県に拠点があり連携ができる。現時点で頭に浮かんだことを言葉にするのは難しく、カードを切るのは早過ぎるところもある。東北のTACとして今までにない建設会社をつくることに挑戦していく。良い意味で従来の枠からどれだけ外れていけるか。イノベーション含めたワクワク感を大切にしたい」
「みずほ銀行のつながりで工事を受注するというより、ベンチャーや今まで関わりがなかった異業種企業との連携で後押しを期待したい。次の世代にバトンを渡すにはわれわれもやるべきことがある。地域にとって建設会社は不可欠で、安心を支える存在だと思っている。作り込みには時間がかかると思うが来春には形をはっきりさせて始動する。石橋はたたくが、たたいて渡らないことはない」。