建築へ/建築家・藤本壮介氏初の大規模個展、森美術館で開催

2025年7月11日 論説・コラム [12面]

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 ◇創造と希望が膨らむきっかけに
 建築家・藤本壮介氏の初めてとなる大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が東京都港区の森美術館で始まった。初期から世界各国で進行中のプロジェクトまで約30年にわたる活動を8セクションに分け網羅的に紹介している。現代美術館で建築展の可能性も追求。インスタレーションや大型模型などを活用し、視覚的、聴覚的にも藤本建築を体感できる内容になっている。
 会場は△思考の森△軌跡の森-年表△あわいの図書館△ゆらめきの森△開かれた円環△ぬいぐるみたちの森のざわめき△たくさんのひとつの森△未来の森 原初の森-共鳴都市2025-の8セクションで構成する。
 思考の森は活動初期から現在計画中まで100以上のプロジェクトを紹介する大型インスタレーション。閉鎖的な境界線が外部に開かれる「ひらかれ、かこわれ」、空間の用途や性質が曖昧で多義的な「未分化」、一つの建築が多くのパーツで構成される「たくさんのたくさん」という藤本建築の根底をなす三つの系譜に分類。模型や素材のほか、アイデアの断片であるオブジェなどを年代順に配置した。300m2を超える空間で藤本建築の全貌を表現している。
 ゆらめきの森では、建築を利用する人や居住者の動きに焦点を当てる。「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(横浜市金沢区)や「エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター」(フランス・サクレー)など五つのプロジェクトを建築図面とともに紹介。白模型に人々の動線を示すアニメーションを投影している。
 開かれた円環は、藤本氏が会場デザインプロデューサーを務めた大阪・関西万博の会場シンボル「大屋根リング」(大阪市此花区)を中心に構成。5分の1サイズの部分模型を展示しているほか、構想段階のスケッチや記録写真などを見ることができる。大屋根リングが体現する「開かれた円環」という概念に焦点を当て、それを具現化する「ハンガリー音楽の家」(ハンガリー・ブダペスト)など関連する12のプロジェクトの模型も展示している。
 ぬいぐるみたちの森のざわめきでは、「ラルブル・ブラン(白い樹)」や「太宰府天満宮仮殿」(福岡県太宰府市)など九つの建築がぬいぐるみとなり対話するインスタレーション。ユーモラスな会話を通じて、個々の建物の特徴や設計の背景などに触れることができる。
 藤本氏は開催に当たって「これまでの集大成であると同時に、これからの方向性を模索する展覧会になると感じている。『こんな建物や街で暮らしたら、世界はどう見えてくるのだろう』と皆さんの創造と希望が膨らみ、未来をポジティブに考えるきっかけとなればうれしいです」とコメントを寄せる。
 主催は森美術館。会期は11月9日まで。開館時間は午前10時~午後10時(火曜日は午後5時まで)。料金は一般が平日2300円(オンラインチケット2100円)、土日・祝日2500円(2300円)。

 □藤本壮介氏が講演/知らない土地や異文化に暮らす人の考えが建設思想の糧に□
 藤本氏は国際観光施設協会(浅野一行会長)が6月16日に都内で開いたセミナーで、「動き回り、そこで出会うモノからインスピレーションを得ながら建築をつくっている。知らない土地や気候、異なる文化の人が考えるビジョンなどが建築思想や社会像への刺激、糧になっている」と仕事の源泉を語った。
 その一例としてフランス・モンペリエで手掛けたマンションを解説した。外での生活を楽しめる大きなテラスが特徴で「バルコニーに出て隣人と会話をすることで、完成から1年後に発生した新型コロナの時期を乗り切ることができた」という住民の話を紹介。藤本氏は「これからの時代はプライバシーを閉じて閉じこもるのではなく、コミュニティーが生まれるようにあえて解放する(住空間の)造り方が良いのかもしれない」と述べた。
 太宰府天満宮(福岡県太宰府市)の「仮殿」を設計するプロジェクトでは、植物が息づく大屋根を現代技術でつくることに挑戦した。本殿改修中の期間限定の仮殿で、若い宮司から「現代建築で設計してほしい」と依頼された。日本の伝統建築の特徴である大きな屋根や、神社の屋根が自然素材で葺(ふ)かれることに着目。太宰府の飛梅伝説なども踏まえ、屋根の上に鎮守の森を造りだした。
 岐阜県飛騨市では、中規模木造建築で地域とつながる共創拠点「soranotani」を設計した。大学のキャンパスや商業施設、宿泊、温浴施設、公園などで構成する複合施設で、薬草や木材など飛騨の地域資源を生かしたコンテンツを計画。「飛騨の古い町並みと新しいモノを組み合わせることで、新旧両方が引き立つようなまちづくり、まちおこしができないか(と考えている)」と思いを語った。
 藤本氏は大型の木造・木質建築が世界的な潮流になっている中、日本が少し遅れていると指摘。その上で大阪・関西万博の会場シンボル「大屋根リング」を提案した経緯について「日本には1000年以上の木造の歴史がある。万博というグローバルな場で巨大構築物を木造でやらないのはもったいないと思った」と説明した。設計に当たって大阪で万博を開催することへの意義も熟考。「一番の根底にある『多様性がつながる場』を見つめ直し、問い直して世界に発信する」との思いを明かした。

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