回転窓/覆水盆に返らず

2025年7月15日 論説・コラム [1面]

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 「覆水盆に返らず」ということわざがある。一度起きたことは元に戻すことができないというたとえだ。政治家の口から出た言葉も同じ。発言撤回という便利な言い訳で幕を引いたつもりでも、拡散した情報も生まれた不信もネットに半永久的に残り続ける▼にもかかわらず似たような光景が繰り返される。撤回会見で原稿を読み上げるだけ、謝罪らしき言葉を並べるだけでは責任という器を満たすことはできない▼重要なのは過ちを正す行動だ。誤った数字を示したなら根拠を示し直し、誤解を招く政策案なら再検討の工程表を公開する。言葉と行動が一致して初めて、失われた信頼は少しずつ取り戻せる▼覆水は戻らなくとも新しい水を注ぎ直す努力は可能なはずだ。発言を受け止めた側も聞こえのいい撤回に安易に頷くのではなく、後始末のプロセスを監視し、結果を評価する責任を負う▼新聞報道にも同じことが言える。ニュースを伝えるのは水の循環に似ている。透明で清らかな流れを保つには丁寧で慎重な取材活動と言葉を吟味する知識が必要だ。自戒を込めて、清流を濁せば重い代償が待っていると肝に銘じたい。

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