スコープ/三井共同建設コンサル/徳島・美波町の藻場を守れ!!

2025年7月16日 行政・団体 [12面]

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 ◇地域と連携し経済と環境の好循環へ
 伊勢エビやアワビといった海産物を育む藻場を守り、地域経済と環境の好循環につなげる--。そんな未来を描き、徳島県美波町で三井共同建設コンサルタント(東京都品川区、中野宇助社長)らが立ち上げた「藻藍部(もあいぶ)」が活動している。漁業協同組合や地域おこし協力隊とともに、海藻を食べるアイゴの食品加工や藻場への栄養源の供給を推進。水産業が新たな価値を見いだすための土台を固めていく。
 藻藍部の中心メンバーは、同社MCC研究所の吉田恭平新技術研究室長。美波町でスマートシティー実行計画の策定に携わった縁で、2021年に藻藍部を結成した。藻藍部の活動目的について吉田氏は「地域のみんなの収入が増えること」という。藻場の保全によって生み出される利潤を「地域のキャッシュポイント(収益を生み出す機会)」と捉え、これをコーディネートする力を同社のスキルとして育てる。
 カジメやアラメといった海藻は、アワビなど貝のエサや伊勢エビの隠れ家となる一方、アイゴの好物でもある。吉田氏は「海藻が新芽を出す1、2月の水温は以前、アイゴがエサを取らなくなる15度以下だった。ここ数年は地球温暖化の影響で水温が上がり、新芽がアイゴに食い荒らされる状況が続いている」と説明する。
 アイゴは食用になるものの、とげに毒があり磯臭いため市場にあまり出回らない。藻藍部はアイゴの活用に向け「臭みを抑えるため水揚げしてすぐ氷漬けにした上で、その日のうちに処理して瞬間凍結をかけている」(吉田氏)。市場でのアイゴの取引額は1キロ80円程度だが、処理経費に船のガソリン代を加えると、1キロ300円程度の単価を付けなければ赤字になってしまう。
 そこで藻藍部は町と連携し、アイゴの漁獲や流通を促す「アイゴ水揚げ最低価格保証制度」を24年に創設した。キロ当たりの差額220円分を、町へのふるさと納税で補う。町外の漁協でも同制度を実施。24年4~12月に町内外で合わせて4トンのアイゴの水揚げを実現した。
 漁獲したアイゴは、徳島県の名物ですり身にカレー粉をまぶして揚げた「フィッシュカツ」やかまぼこ、生ハムなどに加工。4月から活動に加わった地域おこし協力隊は、フィッシュカツを挟んだバーガーをキッチンカーで販売している。
 藻藍部は海藻の培養に力を注ぎ、海藻を効率良く育てるための増殖資材を開発した。徳島名物のシイタケの栽培にはおがくずを固めた菌床を使うが、これに海藻の栄養源となる窒素やリンが多く含まれることに着目。使用後の菌床に酒かすやウニの殻を混ぜて固めた藻場の増殖資材を開発。漁師の指導の下で漁船から海に投げ込む作業を、同社の新入社員研修や地元小学生の体験学習と連携して行っている。
 船上から藻場に海藻の胞子をまく「スポアバッグ」も漁協や行政の水産研究所と協力して定期的に実施しており、今後は目標を具体的に定め、規模も拡大し展開していく方針だ。
 同社は二酸化炭素(CO2)を海中に固定する取り組みを促す「Jブルークレジット」の認証を受ける見通し。1月にジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)へ申請し、9月にも認証される予定だ。取り組みを他地域にも広げたい考えで「東北から関西圏まで、数カ所の地域でクレジットの発行を検討している」(吉田氏)という。
 水産庁は24年の漁港漁場整備法改正に伴い、海の資源を生かした観光や飲食などの産業を振興する「海業」を推進している。同社は千葉県旭市で「海業推進事業計画策定支援等業務」を受注。これを皮切りに、各地で水産業の活性化に向けたコンサルティング業務にも取り組んでいく。