ワールドワイド/東京メトロが海外鉄道ビジネスを積極展開、O&M事業を推進

2025年8月6日 論説・コラム [16面]

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 東京メトロが海外で鉄道ビジネスを積極展開する。4月に始動した3カ年中期経営計画(2025~27年度)で海外ビジネスを成長分野の一つに位置付けた。5月には英国で乗客数の多い路線の運営事業を開始。アジアでもアドバイザリー業務や人材育成に取り組んでいる。これまで100年にわたり積み重ねてきた新線の建設から運行、メンテナンスまでの経験を生かし、さまざまな国で安全・定時性に優れた鉄道運営の実現を後押しする。
 同社は24年10月、東京証券取引所プライム市場に上場した。さらなる飛躍に向け、グローバルな視点で事業を展開することで収益源の拡大を狙う。環境性能の高い鉄道技術の普及を通じ、世界の都市の持続可能な発展にも貢献したい考えだ。
 海外ではO&M(運用・保守)事業が進む。東京メトロと住友商事は24年11月、英ロンドン市交通局から地下鉄エリザベスラインの運営事業を受注。両社と英国の鉄道事業者The Go-Ahead Group(ゴーアヘッド・グループ)の3社で設立した合弁会社「GTS Rail Operations(GTS)」が5月に事業を始めた。契約期間は最長9年となっている。
 GTSの出資比率はゴーアヘッド・グループが65%、東京メトロと住友商事が各17・5%。東京メトロからは取締役として1人を派遣し経営に参画。社員2人が現地に駐在し、GTSのメンバーとして鉄道運営事業に携わっている。
 運営する「エリザベスライン」はロンドン西部にあるヒースロー空港からロンドン中心部を経て東部をつなぐ全長117キロの路線。22年に全線開業した。駅数は41駅(うち地下駅11駅)に上る。英国内で乗客数が多い路線の一つで、23年は2・1億人以上が利用した。30年には年間2・5億人を超える見込みだ。
 エリザベスラインの運営事業を足掛かりに東京メトロは今後、「O&Mの入札案件が見込まれる地域を中心に、案件ごとのリスクや条件を吟味した上で参入可能性を検討する」(同社担当者)考えだ。
 ベトナムでは24年12月にホーチミン市で開業した「都市鉄道1号線」のO&Mアドバイザリー事業を5月に開始。12月31日まで同事業に従事する。
 現地オペレーターが駅を運営する時に発生するトラブルの対処方法や、業務マニュアルの策定・改定に向けた助言を行っている。電力・電車線設備の異常時対応やメンテナンス時の作業員の安全確保をサポートするとともに、保守・管理計画を作成する時にアドバイスも行っている。
 ハノイ市やホーチミン市では国際協力機構(JICA)の都市鉄道研修能力強化プロジェクトを通じ、人材育成にも注力している。
 同社はベトナムで長年支援を続けてきた。13年からJICAが行う技術支援プロジェクトを通してハノイ市で都市鉄道運営会社(ハノイメトロカンパニー)の設立をバックアップ。同社発足後は、同社やハノイ市と「友好と協力に関する覚書」を交換した。
 17年3月には現地法人「ベトナム東京メトロ」を設立。ハノイ市とホーチミン市を中心に同国全体の都市交通機能向上に貢献することで、日本とベトナムの友好関係強化にもつなげている。25年7月現在、社員9人が在籍している。
 人材育成支援はフィリピンでも展開。同国は都市鉄道の整備や拡張が急速に進み、運営の知見に関するニーズが高まっていた。
 JICAがマニラ市で実施しているフィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化プロジェクトの中で都市鉄道人材の育成に取り組む
 25年4月に同国のFEATI大学と「研修に関する覚書」を交換した。鉄道の運行・安全管理、駅業務、災害対策、サービス向上策など多様な研修内容をラインアップ。「日本の大都市で培ってきた実績を基に、東京メトロならではの実践的な事例を交えて体系的に伝える」(東京メトロ担当者)。同社の実務経験者や専門分野の担当者が登壇し、現地での対面授業とオンラインを組み合わせて講義する。
 同大学での授業を「TokyoMetro Academy(東京メトロアカデミー)」の一環に位置付けている。世界の鉄道関係者向けの講座で、これまでの海外支援事業の実績をベースに、体系的に知見を共有する場として21年度に本格スタートした。オンラインと訪日研修を組み合わせている。
 開始後は年々講座数を拡充。安全・安定運行のノウハウを世界に発信している。これまでにアジアのほか中東や北米、欧州など幅広い国が参加した。同社は研修のラインアップをさらに拡充するとともに、受講者を通じてニーズを把握し鉄道関係機関の研修プログラム開発といった新規の受注を目指す。

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2025年8月6日 [1面]