漫画家の故やなせたかしさんの半生を題材にしたNHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」が、最終話まで2カ月を切った。終戦直後の混乱を経て物語は中盤に差しかかる。出勤前に視聴されている方も多かろう▼やなせさんは旧制東京高等工芸学校(現千葉大学工学部)を卒業し、製薬会社に就職。太平洋戦争に従軍後、故郷の高知で新聞記者をしていたときに暢夫人と出会った。漫画家デビューを果たしたのは30歳を過ぎていた▼代表作は絵本シリーズ「アンパンマン」。1973年の発行以来、累計発行部数は9000万部に上る。おなかを空かせている人に自分の顔をちぎって食べさせる正義の味方アンパンマン。それは自分が食べるはずだったあんぱんを、身寄りのない戦争孤児に分け与えたやなせさんの実体験が基になっている(伊多波碧著『やなせたかしの素顔:のぶと歩んだ生涯』)▼戦争で弟さんを亡くしたやなせさん。生前は戦争の無意味さを著書などで訴えていた▼戦争経験者の平均年齢は86歳を超え、記憶の継承が課題となっている。恒久的な平和を築くには何をすべきか。戦後80年を迎え、じっくり考えたい。