CLT(直交集成材)など全面的に木材を活用した高齢者施設「花みさきIII」の新築工事が神戸市兵庫区で進む。建物規模はW造3階建て延べ1760平方メートル。同程度規模の特別養護老人ホーム用途でのCLT建築は全国初の取り組みという。神戸千ケ峰会(神戸市兵庫区、春井秀雄理事長)が工事発注し、設計を地域計画建築研究所、工事監理を創・空間設計、施工を前川建設が担当する。8月中旬の工事進捗率は約23%。2026年2月の完成を予定している。
建設地は浜中1の17の3。神戸市が近隣で社会福祉事業を展開する神戸千ケ峰会を市有地活用事業者に選定。50年間の定期借地で施設を整備・運営する。
施設は1階にショートステイ6室と生活介護事業所、2階にユニット型特別養護老人ホーム29床、3階に指定緊急避難所を配置。約40人のデイサービスに対応する。耐火建築物として安全性を確保し、木の温かみを感じられる環境を実現する。
建物は木造軸組工法を採用し、床部分にスギ材のCLT(厚さ90ミリ、3層3プライ)を使用する。銘建工業(岡山県真庭市)が製造した約91立方メートルのCLTを活用。その他構造材には柱や梁に欧州産アカマツの集成材、間柱や垂木にスギ、土台にヒノキを採用する。
設計段階で林野庁の「CLT活用建築物等実証事業」に選定され、工事費でS造に対して約91%、RC造に対して約94%に相当する低コスト化を実現。CLTの採用で従来工法よりも工期を短縮し、木材の調湿効果や断熱性の高さでも冷暖房効率の向上が期待される。自身も建築設計者として地域の街づくりに参画する春井理事長は、事業提案段階から積極的にCLT活用を希望。「各間取りが木の心地よい香りに包まれ、入居者に優しい施設が誕生するだろう」と話す。
循環型社会の実現に向けてCLTの普及が進む中、花みさきIIIプロジェクトは福祉施設での先進事例として注目を集める。8日には大分県立日田林工高校(日田市)の建築土木科教諭らが研修で現場を訪問。高田真吾工事所長(前川建設)の説明を受けながら躯体工事の施工状況を見学し、CLTへの理解を深めた。同校の徳光渉教諭は「木材の可能性を改めて実感した。知見を持ち帰り、大分県や九州地域でもCLTを普及できるよう少しでも役立てたい」と語った。