回転窓/走らせるより休ませる

2025年9月2日 論説・コラム [1面]

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 サッカーで名高い「ゲーゲンプレス」。ボールを失った瞬間に全員で圧力をかけ、相手を窒息させる戦術だ。爽快だが体力や連動を欠けば自滅する。企業経営も似た構図ではないか▼シェアを失えば「奪い返せ!」とげきが飛び、管理職は部下をかき集め全力疾走。だが持久力の設計も役割整理もなく、息切れして立ち往生するのが常だ。スピードはあるが、方向を示すコンパスが欠けている▼ゲーゲンプレスの成立条件は明確な目的、即時の意思疎通、信頼関係、そして休む知恵。ところが会社は前半二つを掲げる一方、評価制度で競わせ、働き方改革を唱えつつ残業で帳尻を合わせる。掛け声は勇ましいが、実態は矛盾に満ちた綱渡り▼管理職が学ぶべきは戦術ボードではなく、選手の心拍や疲労を測る「トレーナーの目」だ。短期成果に飛び付けば、肝心の選手=部下が去り、プレスの網は穴だらけになる。士気を食いつぶす指示は、静かにチームをむしばむ▼結局、まねるべきは攻撃の圧力ではなく、休養と配置転換を見極める冷徹なバランス感覚。人材はサッカーボールと違って容易に補充も、奪回もできないのだから。