◇ドローンでインフラ革新けん引
ドローン関連事業を展開するテラドローン(東京都渋谷区)が、「日本スタートアップ大賞2025」で国土交通大臣賞を受賞した。2016年の設立以来、屋内点検用ドローンや運航管理システム(UTM)を開発し、国内外に事業を拡大。アジアや中東へも進出し、24年11月には東京証券取引所グロース市場に上場した。徳重徹社長は「世界の動きを見極め、顧客に価値を届けられる分野をさらに広げたい」と意欲を語る。
成長の秘けつは…
もともと米国を中心にスタートアップ支援に携わっていた徳重氏は、その経験を基に「日本初のグローバルメガベンチャーを創る」との構想を描き、10年に電気自動車(EV)の会社を設立。ただ、当時の市場は早過ぎた。業績が伸び悩む中、次の事業として注目したのが米国などで普及が進んでいたドローンだった。「早く、安く、安全に点検や物流が行える」ドローンは、徳重氏が重視する「顧客価値の明確さ」を備えていたことが決め手となり、16年にテラドローンを創業した。
創業から10年足らずで急成長を遂げた背景には、「人とのつながり」があると徳重氏は強調する。創業初期、山形でドローンを測量に活用していた企業から技術者を迎え入れた。同社は当時まだ珍しかった、5センチ単位の精度が出せるドローン測量技術を独自開発しており、それが初年度からの事業成功につながった。
徳重氏はこの関係構築法を「丁字戦法」と名付ける。多くの人に会い、「これだ」と思う相手には深く関わっていくスタイルで、国内外に幅広いネットワークを築いてきた。早稲田大学のレーザースキャナー技術を買い取り、「テラライダー」へと事業化した事例や、インドネシアでの農業支援サービスなど、展開は多岐にわたる。
国内市場に逆輸入も
新規株式公開(IPO)を達成した今も、「上場は通過点に過ぎない」と話す徳重氏は、「目線を下げない意識改革が大切」と説く。上場後に陥りがちな「重要業績指標(KPI)偏重」への懸念も示し、「数字にとらわれず、イノベーション志向を重視する」との姿勢を崩さない。
今後の成長戦略ではグローバル展開を加速する。テラドローンの売り上げのうち海外比率は56%を占め、インドネシアや中東で測量・点検・農業支援を展開中だ。さらに、欧州を中心に8カ国で導入実績のあるベルギーのUTM開発企業・Uniflyに出資し、子会社化。日本へのイノベーションの逆輸入も視野に入れる。
一方、国内市場にも大きな可能性を見いだす。測量から物流、セキュリティー監視まで多様なニーズがあり、「規制緩和が進めば有人地帯での運航も現実味を帯びてくる」と分析。ドローンポートを用いた「ドローン・イン・ア・ボックス」型の自律飛行が今後の主流になると予測している。
挑戦こそが本質
建設分野では、埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故以降、屋内や地下の点検ニーズが増加。国交省が推進するi-Construction2・0の拡充や、第1次国土強靱化実施中期計画などの政策も追い風だ。1月に発売した屋内点検用ドローン「Terra Xross1」を軸に、サービス拡大を目指す。「建設分野は創業時からの柱。今後も測量・点検で価値を提供していきたい」と話す。
若者へのメッセージとして、「考え過ぎず、まずやってみることが大切」と徳重氏は力を込める。「失敗は前提。そこから修正すればいい。挑戦こそがスタートアップの本質」と語った。
(とくしげ・とおる)九州大学工学部卒。住友海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)を経て、米サンダーバード国際経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2010年にテラモーターズ、16年にテラドローンを設立。山口県出身、55歳。