◇持続可能なメンテサイクル構築
橋梁を含む道路構造物の持続可能なメンテナンスサイクル(点検・診断・措置・記録)に貢献する。長年実施してきた橋梁診断業務の経験や技術を道路管理者に共有し、精度の底上げを図る。データベース(DB)を基軸としたメンテナンスサイクル全般の自動化も見据える。
--就任の抱負を。
「歴史ある橋梁調査会の理事長に就任したことを光栄に思う。歴代の理事長や職員の取り組みを参考にし、より良い業務体制を構築する。最も大きな役割は2012年の笹子トンネル天井板落下事故を教訓に、メンテナンスサイクルを円滑かつ着実に繰り返していけるようにすることだ。国や地方自治体、高速道路会社などの施設管理者をサポートしていきたい」
--橋梁メンテナンスの現状認識は。
「14年度から全管理者に義務付けられた道路構造物の定期点検が3巡目を迎えている。国の道路メンテナンス年報を見ると、橋梁は円滑にメンテナンスサイクルが回っている。持続可能なメンテナンスサイクルを構築するには担い手が欠かせない。当会が運営する道路橋点検士の資格制度などを通じ、担い手の確保・育成で品質の向上を目指す」
--当面の課題を。
「1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没のような事故を二度と起こしてはいけない。そのためにも点検精度をさらに上げていく必要がある。04年度にメンテナンスサイクルの肝といわれる橋梁診断業務を開始し、経験と実績を重ねてきた。他の施設管理者にも技術などを水平展開し、橋梁メンテナンス全体の底上げを目指したい」
「点検や診断に関するDBを技術開発の基盤として活用し、橋梁メンテナンスサイクルの全般が自動化できればいい。点検や診断のDBはある。だが、どのような対策を講じたかという記録のDBは存在しない。どのレベルの損傷でどんな措置が必要かを明らかにし、必要なデータを共有できれば、民間事業者も技術開発などで知恵を出しやすくなるだろう。国や自治体と協力して構築したい」
--地方自治体が管理する橋梁のメンテナンスは大きな課題だ。
「点検業務を地元の建設コンサルタントや測量会社などが受託し、技術的に難しい業務は当会が受けるという、橋梁保全の『総合技術センター』としての分担もあると考える」
--技術の高度化に向けた取り組みは。
「大阪湾岸道路西伸部や下関北九州道路といった最新技術が使われる大規模プロジェクトは、今後さまざまな技術課題が出てくるだろう。必要に応じて関係者に情報を提供し支援する。世界をリードしてきた日本の橋梁技術を継承し、さらに進化させたい。施工後のメンテナンスが簡素にできる工夫も必要だろう」。
--今後への思いを。
「日本橋梁建設協会(橋建協)の副会長兼専務理事を務めていた昨年7月、100周年を迎えた金沢市にある犀川大橋の『橋磨き』に参加した。地域の皆さんが朝晩散歩したり、帰省された方が橋を眺めていたりする光景を目の当たりにして、『橋冥利(みょうり)』に尽きると思った。多くの人に愛される、そんな橋を一つでも造り守っていけるように貢献したい」。
(10月1日就任)
(いしはら・やすひろ)1987年九州大学大学院工学研究科修了、建設省(現国土交通省)入省。官房技術調査課長、関東地方整備局長、官房海外プロジェクト審議官などを歴任し2021年7月退官。22年6月日本橋梁建設協会副会長兼専務理事。趣味は音楽鑑賞でサザンオールスターズのファン。鹿児島県出身、62歳。