時流/防衛省官房施設監・井上主勇氏/士気高く任務に専念できる環境整備

2025年10月2日 人事・動静 [2面]

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 ◇経済成長の視点で民間との連携強化
 政府の防衛力整備計画に基づき総額4兆円規模の施設強靱化プロジェクトに取り組んでいる防衛省。5か年計画の3年目を迎え、今後、工事が本格化していく。8月1日付で官房施設監に就いた井上主勇氏は「歴代施設監の取り組みに継続性を持たせ、政策課題を前に進めたい」と抱負を語る。施設更新に対する自衛隊員の期待は大きく、「士気高く任務に専念できる環境の整備」にまい進する。
 --自衛隊施設の強靱化が進んでいる。
 「最優先の課題は、防衛力整備計画に示された防衛力の抜本的な強化を実現するための目標である主要な防衛施設の強靱化だ。これまで以上に本省、地方防衛局、そして民間の建設事業者との連携が求められる。国家安全保障戦略には安全保障と経済の好循環の実現が書かれている。経済成長の視点も持って民間との連携強化の施策も推進したい。民間との関係は、発注者と受注者が一体となって国家の安全を守る米国の施設行政が参考になると感じる。米国には軍事技術者協会(SAME)がある」
 --施設整備の状況は。
 「自衛隊施設は、能力発揮の基盤となる。平素は隊員の勤務場所や生活の基盤だが、有事には作戦能力が容易に喪失しないよう強靱化が非常に重要になる。国民の安全の土台であって、強靱化は究極の公共施設を強固にする事業。2026年度予算概算要求額に25年度までの予算を加えると3兆0772億円となり、5か年で約4兆円の約8割に相当する。1円もむだにせず、安全保障を支えるために有効活用する」
 「マスタープランに基づいて実施する全国の駐屯地・基地など283地区の最適化事業のうち、ECI方式を採用する地区は24年度に20地区の設計業務を契約した。25年度は4地区の契約を予定する。この24地区は、実施設計が完了した5地区で工事契約を締結しているところ。ECI方式以外の地区も24年度は20地区の設計業務を契約し、25年度は約100地区の契約手続きを進めている」
 --事業の円滑で着実な実施が課題になる。
 「工事量が増加し、資材価格が高騰する中で、制度と運用の両面からこの3年でさまざまな対策を講じてきた。見積活用方式の適用を拡大するとともに、見積単価を事前に交付し、適正な価格が算定されるようにしている。特殊な工種も見積採用単価を交付する。技術業務は期間が長いことが多く、スライド条項の追加や旅費・宿泊費の実費精算の取り組みを始めた」
 「週休2日制や遠隔臨場システムを全工事に適用し、受発注者双方の業務の効率化と担い手の確保に努めている。本省整備計画局は施設整備課を新設する組織改編で、工事実施の所管部署の体制を強化した。対策を講じても不調・不成立が増えてきている現実がある。企業側の負担を軽減するため、10月から配置予定技術者の拘束期間を短縮し、参加表明段階で技術者の資料を求めない方式を試行する。前例にとらわれず、機動的に対策を実行したい」
 --防衛施設強靱化推進協会と意見交換してきた。
 「前向きな、行政では思いつかない細かな意見をいただいた。平和と安全に貢献する目的を明確にしてくれている協会と意思をしっかり疎通したい。技術者の資格認定制度や資材などの適合品を登録する制度の研究を進めていると聞いている。強靱化に貢献し、防衛力の実効性の向上につながるなら、できる限り協力していきたい」。
 (いのうえ・かずみ)1993年北海道大学大学院土木科修了、防衛施設庁(現防衛省)入庁。沖縄防衛局調達部長、官房参事官、整備計画局施設整備官、官房審議官を経て8月1日付で現職。北海道出身、58歳。