「軍艦島」保存へ研究拠点施設/清水建設の木造仮設・デジタルツイン結集

2025年10月16日 技術・商品 [3面]

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 「軍艦島」の通称で知られる長崎市沖の端島(はしま)で、清水建設が老朽建物の保存に全面協力する。同社の木造仮設技術を導入し、組み立てや解体が容易な研究拠点施設を新設する。島内での新築は55年ぶり。デジタルツインを活用し、AIや遠隔臨場による劣化・被災度の自動診断システムの開発も目指す。2015年に登録された世界文化遺産の維持と継続に貢献する。=1面参照
 清水建設は長崎市の共同事業者として参画する。かつて島内で多くの建物を手がけ、保存にも携わってきた経験を生かす。
 まずは保存作業に携わる研究者の拠点施設を整備する。「シミズサイクルユニット」と呼ばれる仮設木造システムを採用し、船着き場近くの海波ブロック付近に建設する予定。地場の木材と地域の施工者で対応可能な仕組みで、一般流通材を用いた在来軸組とパネルのハイブリッド工法により、コストと工期の短縮を図る。
 市によると、端島周辺は波浪が高く、上陸確率は約50%にとどまる。特に秋から冬にかけては条件が厳しくなるため、資材輸送の回数を減らせる軽量構造が求められている。仮設木造システムはユニット化されており、運搬や組み立てが容易な点が特徴。基礎には島の砕石を利用し、資源循環にもつなげる。
 施設は木造平屋約50平方メートルの規模。施工は地元の工務店・四季工房(長崎県長与町、松浦文彦社長)が担当し、整地と蛇籠(じゃろう)基礎工は日本道路が施工する。11月に着工し12月の竣工を予定。試用期間を経て26年3月の運用開始を目指す。建設費は最大約3000万円を見込む。
 清水建設の香田伸次生産技術本部特別理事(建築技術担当)は「木造仮設だが、恒久施設とほぼ同等の性能を持つ」と説明。災害時には観光客の一時避難所としての利用も想定する。運用後2年間は機能を追跡調査し、離島や災害復旧現場への応用も検討する。
 施設には、約2500回の使用が可能な循環式トイレを設置する。下水道への接続を必要とせず、水をミネラルイオン溶液で再生循環させる仕組みで、臭気の発生を抑える。
 デジタルツイン技術を導入し、建物の劣化や被災度を定期的に可視化・診断するシステムの開発を進める。市によると、建物の老朽化は深刻だが、手元には外観写真しかデータがなく、詳細な記録が不足している。点群データを基に部材単位で変化を比較し、保存方針の検討に役立てる。危険区域の模擬ツアーやVR(仮想現実)コンテンツの制作も予定している。
 端島は24年秋に同島を舞台にしたテレビドラマが放映され、観光需要が再び高まっている。清水建設は今回の取り組みを通じ、島全体を歴史・構造分野の教材として活用できる環境づくりを進める方針だ。