国土交通省は、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの復興支援に力を入れている。10月、がれき処理への活用が見込まれる遠隔施工技術のデモンストレーションをキーウ工科大学(ウクライナ・キーウ)で実施。技術の有用性を確認した。引き続き、実用化に向けた取り組みを進める。今後は、道路や橋梁、上下水道、住宅の再建など、遠隔施工技術にとどまらない復興支援に裾野を広げる方針だ。
 デモンストレーションは、システムが重機に組み込まれている「内蔵型」と、通常の重機に遠隔操作用ロボットを取り付ける「後付け型」の2種類で実施した。
 内蔵型は、コベルコ建機が開発した遠隔操作システム「K-DIVE」を使用。後付け型は、アクチュエーター(加力装置)として、コーワテックの人工筋肉を利用したアクティブロボSAMや、ソリトンシステムズが開発した映像通信システム、Zaoシリーズ、Zao Cloudを使用した。
 ICTを活用することで、オペレーターが安全な場所から重機を動かすことができる。キーウ市の会場から約8000キロ離れた神戸市の重機を遠隔操作し、通信環境や操作の安全性を検証した。実際に操作を体験した現地の人からは「操作していて楽しかった。技術に感動した」との声が上がった。
 現地ではKyivstarやLifecellといった複数の通信事業者を活用。回線の冗長化を確保した。例えば、一方の回線に障害が発生しても、もう一方で稼働を継続できる仕組みを構築した。
 デモンストレーションには国交省に加え、八千代エンジニヤリング、ソリトンシステムズ、コーワテック、コベルコ建機の技術者が参加。ウクライナ政府関係者や国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)、国連女性機関(UN Women)らも視察した。
 現地の人からは、「いつから導入できるのか」「購入ルートを知りたい」といった具体的な質問が相次ぎ、技術への関心の高さがうかがえた。
 国交省総合政策局海外プロジェクト推進課プロジェクト推進技術調整係長の大槻聡志氏は「現地の方に、『復興に協力してくれてありがとう』という感謝の言葉をいただいた。これからも貢献したい」と話す。
 日本の遠隔施工技術は、世界の中でもトップクラスだ。災害現場や被災地など、危険区域でも人命を守りながら作業ができる先進技術として開発され、実用化を進めてきた。
 ウクライナは、長引く戦争で道路や橋梁、上下水道などの基幹インフラに甚大な被害を受けている。がれき処理の作業には、不発弾やアスベスト(石綿)などの危険が伴い、オペレーターの安全確保が大きな課題となっている。さらに、多くの男性が前線に動員され、労働力不足も深刻化している。
 国交省は、遠隔施工技術を活用することで、育児中の女性、戦傷者なども建設作業に参画できるような新たな働き方の実現を目指す。復興を支える「人的資源活用モデル」の構築を進めている。
 同国で女性オペレーターの育成事業を展開するAlefStroi社の担当者は「遠隔施工技術は、オペレーターの安全管理に貢献する重要な技術だ。今後、教育カリキュラムに取り入れたい」と期待を寄せた。
 今回のデモンストレーションは、国交省が1月に立ち上げた「日本ウクライナ・国土交通インフラ復興に関する官民協議会(JUPITeR、ジュピター)」の一環。今後は、道路、港湾、鉄道、住宅など幅広い分野で、ウクライナ復興と日本企業のビジネスマッチングを計画する。
 海外プロジェクト推進課国際協力官の菅井秀翔氏は「現地へ行き、期待の大きさを肌で感じた。その声に日本企業が応えられるよう、国交省として支援したい。まずは遠隔施工を根付かせたい」と語った。
 海外プロジェクト推進課係長の松尾健二氏は、ウクライナでの取り組みが日本の遠隔施工技術の高度化につながると指摘。「現地の人手不足解消に貢献するとともに、そこで培われたノウハウや技術は、日本国内の防災・復旧分野に必ず還元される」と述べた。国交省は今後も、官民連携でウクライナの復興に協力する方針だ。
        




        
        
        
        
        
        
        
        





