回転窓/肩書きより影の知恵

2025年11月11日 論説・コラム [1面]

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 職業とは肩書ではなく、社会という劇場で演じる役割を指すのだと思う。だが、自分がキャスティングされた意味や使命に気付ける人は意外に少ない▼気付く人は、自分という俳優が舞台でどこに立つべきかをよく確認し、周囲の声に耳を澄まし、場の空気を敏感に察知する。気付けない人は、舞台の中央で拍手を独り占めした気になり、客席の所々が空いていることに気付かない▼職場という名の劇場では、その差が周囲への影響となって現れる。自覚ある者は連鎖反応の触媒となり、場を温める。無自覚な者は、知らぬ間に場を冷やす。まるで歩く冷蔵庫のように▼評価とは、その場の空気を読む感度を測る、ささやかなセンサー。皮肉なことに、高評価を得ても自己認識の薄い人は、他人の賛辞を栄養に勘違いの機を必死に育てようとする。成長力とは、自己認識の芽に水をやれる人の特権である▼結局、肩書の重さより、立場を知り、周囲に影響を与え、学び続ける力が重要だ。照明は平等でも、スポットライトを浴びて輝くのは、自分の影を笑い飛ばせる人。万雷の拍手に酔いしれる人ほど、客席が静まり返っているものだ。

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