回転窓/均衡を失った組織は静かに崩れる

2025年11月18日 論説・コラム [1面]

文字サイズ

 「自覚と無自覚」「責任と権限」「評価と処遇」--この均衡が崩れたとき、組織は静かに劣化を始める。自覚だけを求め、権限を与えぬのは、かじを渡さずに船長を責めるようなものだ。責任だけを押し付け、処遇で報いないのは、火中の栗を拾わせて笑う商人に似ている▼管理職を「都合の良い便利屋」として扱う企業は、一見効率的に見える。だが「無自覚の搾取」は組織の魂を衰えさせる。人は、評価されぬ努力を続けられるほど強くない。責任を背負う覚悟は、正当な報いと信頼で支えられる▼静かな搾取は、燃料を補給せずにエンジンを回す車のようだ。最初は走るが、やがて熱を持ち、止まる。エンジンを酷使すれば、いずれ駆動は静かに失われる▼ピーター・ドラッカーは言う。「権限なき責任は、無責任と同じである」。管理職とは命令を下す者ではなく、矛盾を抱えながら人と成果を守る存在。その覚悟を都合よく使う組織は、いずれ“自覚ある人材”を失う運命だ▼組織の成熟とは、従順な人を増やすことではない。自覚ある人を守り抜くことにこそある。その時に初めて、血が十分に通い、生命が宿る。

同一ジャンルの最新記事


2025年11月17日 [1面]

2025年11月14日 [1面]

2025年11月13日 [1面]

2025年11月12日 [1面]

2025年11月11日 [1面]