◇学びと実践で土木に触れる
埼玉県草加市とものつくり大学が連携し、市内に4本ある木造橋のリノベーションに取り組んでいる。高度な専門知識と技術が求められる木橋改修に学生が参画し、実践的なカリキュラムを通じて土木分野の担い手育成を目指す。改修費には税金に加え、クラウドファンディングの資金も充当している点が特徴だ。増え続けるインフラ維持管理費に悩む地方自治体は多く、今後の参考となる取り組みだろう。
木橋は葛西用水路に2本、八条と谷古田の各用水路に1本ずつの計4本。一般的な木造橋の耐用年数は15~20年で、最も古い谷古田の無名橋は供用開始から30年が経過している。
当初は事業コスト縮減などを理由にコンクリート橋への架け替えを予定していた。しかし、用水路に架かる木橋は地域住民に親しまれた財産であり、山川百合子市長は「工夫の余地がないか」と職員に検討を促した。
市は、木造建築コースで学ぶ学生が多いものつくり大技能工芸学部建築学科で指導に当たる大垣賀津雄教授と、芝沼健太講師に相談。市の松岡明建設部長は「担い手確保だけでなく大学教育にも生かせる」と協力を依頼した背景を語る。学生が参画する木橋リノベーションを実現するため、両者は2024年度に基本協定を締結し、プロジェクトが始動した。
4橋のリノベーションは、既存橋をそのままつり上げて大学に運搬する作業から開始。搬入後は損傷状況に応じて復旧方法を検討した。初弾に選んだ谷古田用水の無名橋(1994年竣工、橋長3・1メートル、幅員3メートル)では、15~20人の学生が大垣、芝沼両氏の助言を受け、載荷試験で構造体の強度や耐力を丁寧に計測した。
その後、使用不可の部材と再利用可能な部材に選別し、主桁や欄干の上面などは炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などで補強した。リノベーションを機に無名橋は「中根ふれあい橋」と命名され、24年11月29日の開通式では山川市長やものつくり大の國分泰雄学長らが完成を喜んだ。
25年度は葛西用水に架かる「ふれあい橋」(00年竣工、橋長14・8メートル、幅2・1メートル)を補修。載荷試験の結果、主桁の補強が必要と判断し、シミュレーションを重ねて方法を検討した。
主桁は強度や耐久性が求められる用途に用いるボンゴシ材を3層重ねた構造で、リノベーションでは腐食が進んだ最上段と2段目の一部を赤松集成材に交換。さらに1段目上部にCFRPシートを接着して防水処理を施し、エポキシ樹脂と長尺木ネジで3層を一体化して強度を高めた。
補修設計はものつくり大が担当し、事業費は約2900万円に収まった。橋を新設した場合と比べて6500万円ほどコストが抑えられる。
補修費用は市負担に加え、本年度から「ガバメントクラウドファンディング(GCF)」を活用。ふるさと納税制度を利用し特定プロジェクトで寄付を募る仕組みで、市は目標額100万円を掲げて8月に募集を開始した。寄付は13万7000円にとどまり、現在は受け付けを終了している。残る2橋の補修費をGCFで調達するかは未定だ。
市は八条用水の無名橋(橋長6・3メートル、幅3・3メートル)と、葛西用水の「なかよし橋」(9・3メートル、幅3・0メートル)の補修方法を検討し、順次着手する。プロジェクトは30年度の完了を見込む。
大垣氏は「地域に貢献でき、学生の研究テーマとしても最適」と語り、市の取り組みを「学生が成長する機会を与えてくれた」と高く評価する。学びと実践を通じて土木やインフラに触れる場を設ける草加市とものつくり大の試みは、次代の担い手を育てる新たな挑戦といえそうだ。(写真はすべて草加市提供)








