政府/死者1・8万人、経済的被害83兆円/首都直下地震被害想定更新

2025年12月22日 行政・団体 [2面]

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 政府の中央防災会議傘下の首都直下地震対策検討ワーキンググループ(WG、主査・増田寛也野村総合研究所顧問)は19日、最新の被害想定と必要な防災対策をまとめた報告書を公表した。東京都心が強い地震に見舞われる都心南部直下が風速毎秒8メートルの冬の夕方に発生すると、倒壊と火災の死者は約1・8万人と予想。資産と経済の被害・影響となる経済的被害は約83兆円に上り、報告書は「自分事化」による備えの強化を求めた。 =1面参照
 算定条件を変更しており、単純比較はできないものの、経済的被害は2015年の前回想定から約12兆円減る。都心南部直下の死者約1・8万人の内訳は倒壊約0・5万人、火災約1・2万人。前回想定から倒壊は約17%、火災は約25%減る。耐震化の進展や、火を使わないライフスタイルへの変化が影響するが、揺れ、火災でそれぞれ約13万棟、約27万棟の被害が出る。報告書は東京圏への人口集積に伴い、地震による人的、物的被害とともに、さまざまな要因が重なった社会・経済への深刻な影響を懸念している。
 報告書は都市構造上の新たなリスクを浮き彫りにした。東京都は住宅の約7割を共同住宅が占め、高層マンションが増えている。エレベーターが停止した際の居住、在宅避難の課題を指摘した。空き家が増加し、東京、神奈川、千葉、埼玉で計約66万戸あり、旧耐震基準の老朽住宅も残存する。倒壊と火災延焼の対策が必要とした。
 対策のポイントには▽防災意識の醸成(「自分事化」)、社会全体での体制構築▽首都中枢機能の確保▽膨大な人的・物的被害への対応強化▽迅速な復興・より良い復興への備え-の四つを挙げた。国民一人一人、企業、施設管理者による耐震化などの「予防対策」が不可欠と指摘。限られた人的・物的リソースの中で効果を最大にするために「災害対応ニーズの抑制」と「役割の分担」が必要とした。
 インフラに甚大な被害が発生することから、首都の中枢機能の維持にはライフラインやインフラ、デジタル基盤(電力・通信)を含めたリダンダンシー(冗長性)の確保が重要と強調した。個人・家庭の取り組みとして住宅の耐震化、家具の固定、感震ブレーカー設置、備蓄の推進を求めた。感震ブレーカーの設置を重要課題とし、「積極的なPRが不可欠で、設置が進まなければ火災の抑制は難しい」(内閣府担当者)という。企業にはBCP(事業継続計画)の策定と実効性の向上を求めた。
 被害想定は前回から12年が経過し、耐震化の進展や社会構造の変化を反映してある。都心南部直下地震の震源地は東京都大田区付近を想定。都市部特有の課題には、東京湾岸の火力発電所からの電力供給の途絶や、最大840万人に上る帰宅困難者の発生もある。通信障害の影響の拡大、SNSからのデマ・流言への注意を呼び掛けた。
 報告書は「全員が首都直下地震への備えを『自分事化』として捉えて防災対策の検討や見直しを行う端緒となり、『国民、企業など、地域、行政が共に首都直下地震に立ち向かう』姿が実現することを期待する」と結んだ。
 被害想定の公表を受け、関係機関のうち、国土交通省関東地方整備局の橋本雅道局長は「関東整備局としてインフラやライフラインの耐震化を推進する。道路啓開の実効性向上、テックフォース(緊急災害対策派遣隊)の強化にもしっかり取り組む」とコメントを寄せた。