裸の王様は、なぜあれほど滑稽で、どこか哀れなのか。愚かさよりも、それがそのまま通用してしまう空気のほうが、不気味さを帯びる▼見えない服をまとったつもりで胸を張る王様と、見えているふりをする家臣や民衆。誰もが違和感を覚えながら、最初の一人が口をつぐんだ瞬間、沈黙は合図に変わる。ためらいは静かに広がり、無言の沼に沈んでいく▼一体、誰が悪いのか。王様か、周りか。単純には割り切れない。ただ、どこかに「裸だ」と言いかけて、喉の奥で止めた瞬間があったはずだ。視線をそらし、言葉を飲み込んだその後に、しらじらしい空気が場を覆っていく▼子どもが王様を裸にしたのは、正しいことを口にしたからではない。空気を読む術を知らない、その無防備さゆえだ。無垢な一言は残酷なほどまっすぐで、容赦なく突き刺さる。大人は理由を重ね、立場を測り、言葉を選び続けるうちに沈黙を選ぶ▼記者の仕事は、見えているものを、見えていると言い切ることだ。その重さも、場の空気を壊す怖さも知った上で、後には引かない。飲み込みかけた言葉を外に出した時、現実は自分の呼吸を取り戻す。






