山口県西部の長門市にある俵山温泉は、県内を代表する名湯の一つとして、地元の人や多くの観光客に親しまれてきた。江戸時代には長州藩毛利家直営の湯治場として使われた歴史もある▼温泉地の近くには天然芝の立派なラグビー場があり、高校時代、部活の試合でよく訪れた。夏季休暇で帰省した折、約30年ぶりに温泉街を歩いた。旅館や古い店舗が立ち並ぶノスタルジックな風景は、驚くほど以前のままだった▼変わっていたのは、温泉街へ向かう道のり。当時は厚狭駅から美祢線に乗り換え、最寄りの長門湯本駅まで約1時間。さらにバスで約30分かかった。今は大雨災害で美祢線が不通のため、厚狭駅から代行バスに乗った▼美祢線はBRT(バス高速輸送システム)として復旧する計画と聞く。残念だが、利用者の減少や維持費を考えれば、やむを得ないのだろう▼各地でローカル線が消えていく。だが、線路がなくなっても、列車の記憶まで消えるわけではない。高校生だった自分が車窓から眺めた景色も、心地よい揺れも、まだ覚えている。美祢線の線路を見つめながら、なくなるのは鉄路だけではないのだと思った。








