スコープ/新日本空調がウルトラマン起用、広告シリーズ展開

2025年4月30日 企業・経営 [10面]

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 ◇地域の暮らしを守るヒーローに
 空気の快適を技術で守れ--。新日本空調が「ウルトラマン」を起用した広告シリーズを3月18日に公開した。「カイテキヒーロー」をキーコンセプトに、空調衛生設備工事で暮らしを支える従業員の姿をウルトラマンに投影し、ヒーローのように地球の暮らしを守る存在でありたいという決意を発信する。建設業界では珍しい、有名キャラクターのIP(知的財産)を活用した広告の狙いとは。廣島雅則社長と制作に携わった経営企画本部コーポレートコミュニケーション課の福安麻美子課長、高柳宗一郎さんの3人に尋ねた。
 ウルトラマンが登場する「カイテキヒーロー」シリーズは、テレビCMやウェブの動画広告、新聞広告などで展開する。キャッチコピーである「カイテキヒーロー」と「シンニッポン空調」の文字は、ウルトラマンシリーズのタイトルに用いられる独特の字体を基に作成した。企画には円谷プロダクションが協力。アルビド・ジャパン、コンテナの2社が制作を担った。
 動画は「守れ編」「挑め編」(各15秒)の2編をつくり、ユーチューブで公開中。再生回数は広告分を含め合計194万回(いずれも24日時点)と「上々の滑り出し」(高柳さん)。視聴完了率も想定より好調に推移しているという。
 柔らかい雰囲気の広告が多かった従来とは異なり、今回は「守れ」「挑め」といった命令調の力強い言葉遣いでブランディングの強化を狙う。広告のターゲット層として、学生、顧客、社員の三つを設定し、新日本空調の存在を顧客や社員に再認識してもらいつつ、一般層での認知度向上を目指している。
 ウルトラマンの起用は、2024年11月に広告制作会社が示した複数案のうちの一つだった。福安さんは最初に提案を目にした瞬間を「どうしてもウルトラマンが目を引く。他社との差別化を図る上で本当にインパクトがあった」と振り返る。社員のモチベーションを高める効果も意識しており、前職でCM・広告制作を手掛けていた高柳さんは、「目が届きにくい場所で頑張る社員も誰かにとってのヒーローだよね、という説得力を持たせたかった」と起用の意図を話す。
 廣島社長も幼い頃にウルトラマンシリーズを見て育った世代。「一番に目を引き、ピンと来た。メンテナンスや改修工事で、お客さまの資産を守るわれわれの仕事とイメージがつながる」と決め手を語る。予算面の懸念はあったものの、役員会ではほぼ満場一致で採用が決定したという。
 福安さんは当初、「IPを使った広告の経験がなく、全てが初めて。有効活用できるのか不安はあった」と明かす。映像や写真の撮影では社員役の顔の向きや視線の角度をウルトラマンとぴったりそろえることで、ヒーローとしての共感を演出している。円谷プロの協力を得て、ウルトラマンのイメージを壊さないように光の当て方や表情にも徹底的にこだわった。
 一方で「当社の社員がウルトラマンに変身するわけではない」(高柳さん)と、社員側の手元の動きをあえて変更し、イメージの結び付きが強くなり過ぎないよう配慮した。動画のナレーションは新日本空調が大切にしてきた真面目や誠実といった要素に加えて、「品格を持ち、堂々とした印象」(高柳さん)を与えるように工夫している。
 「カイテキヒーロー」という表現は、空調設備工事の業界で広く使われる「快適」と「ヒーロー」を組み合わせた。決定までには「自分でヒーローを名乗るのか」などの侃々諤々(かんかんがくがく)の議論があったというが、廣島社長は「収まりが良く、お客さまにも社員にも届きやすい言葉だと思った。ウルトラマンのイメージをお借りする以上は、仕事の認知度を高めたかった」と話す。
 広告制作はぎりぎりまで調整が続き、制作が完了したのは公開の約1週間前。品質を追求する中で当初計画よりもプロジェクトの規模が拡大したが、作品が出来上がった時には「完成度の高さに『これはいける』という確信を得た」(福安さん)。
 廣島社長の元には公開直後から社内外から続々と反応が届き、「『いいね』という言葉をたくさんもらった」と笑顔を見せる。一連の広告施策の目標は最終的に「人的資本の強化」であるとし、シリーズ化などの選択肢を念頭に効果的な次の一手を検討する。
 今後の展開について、福安さんは「新日本空調としては初めての大きな広告。ウルトラマンとともに、メッセージを継続して認知度を高めたい」と語る。高柳さんは「企業としての信頼につながるように逆算し、発信内容を計画していく。本社だけ、経営層だけで盛り上がっている風に見えないように、社内への浸透度を高める必要もある」と意気込む。