回転窓/言葉は生き物

2025年8月19日 論説・コラム [1面]

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 言葉は生き物だ。常に変化し成長し、時に暴走もする。新聞記者にとって、その生き物を飼いならすことは仕事の本質だ。だが言葉に絶対的な“正解”はない。事実をどう伝えるか、どう書けば読者の心に届くか--。日々、選択を迫られる▼大胆に書かなければ伝わらない。ただ、繊細さを欠けば真意がゆがむ。事実だけでは退屈と言われ、表現を工夫すれば「あおりだ」と非難される。SNSの時代、言葉の一部だけが切り取られ、文脈も意図も無視されて独り歩きする。薄っぺらな正義感が一人歩きする場面も今や日常だ▼それでも言葉で伝えることをやめてはならない。派手な才能がなくても地道に取材し、何度も書き直す。文末一つ、語順一つを悩み抜く。読み飛ばされる百本の中に、一本でも心を打つ記事を混ぜ込むために▼記事を書くとは読者と向き合うこと。迎合ではなく対話だ。伝えるべき事柄を伝わる形にする。それは単なる職業ではなく生き方に近い。言葉のプロとして、一人の人間として▼言葉は生き物。だからこそごまかさず、逃げず、不器用でも誠実に。読者の心に届くまで決して、書く手を止めない。

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