新聞社で編集記者として原稿に向き合ってきた。時々、自分の文章のつたなさに立ち止まる。取材で事実をつかんでも、どう書けば相手や読者の心に届くのか迷う。言葉を探し、書き直し、また悩む▼文章力を磨くとは、感覚を研ぎ澄まし、言葉を吟味することだろう。難しい表現より、情景がぱっと浮かぶ言葉。数字や肩書の奥に潜む思いも、そっと伝えたい▼文章を整える時間は苦行であり、同時に小さな喜びでもある。どの言葉を残し、どれを削るか。迷いながらキーボードをたたく。その繰り返しが、いつの間にか自分の力になっている▼記事全体の流れも大事だ。川の水がさらさら流れるように、情報を自然に読者へ届けたい。途中でつまずかせず、遠回りさせず。思い描いた通りに文脈が整った瞬間、心の中で小さくガッツポーズ。肩の力がすっと抜け、指先が軽く踊る感覚がする▼新聞記者の誇りは、事実を正しく伝えることに加え、言葉を磨き、読者に寄り添う姿勢にある。理想はまだ遠い。でも一行一行を大切に、きょうも明日も書き続ける。その積み重ねがいつか読者の心に届く--。そう信じて前に進む。