東海豪雨から25年/名古屋大学減災連携研究センター・田代喬特任教授に聞く

2025年9月11日 論説・コラム [8面]

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 ◇流域治水、確実に浸透/都市機能集積に併せた低地利用見直し必要
 2000年に発生した「東海豪雨」から11日で25年がたつ。今年も全国各地で豪雨被害が発生しており、水害リスクへの懸念は増す一方だ。節目に当たりこれまでの対策を振り返るとともに、あらゆる関係者が協働する「流域治水」などについて、田代喬名古屋大学減災連携研究センター特任教授に話を聞いた。
 --25年前と比較し、大きな変化は。
 「レーダー観測、数値予報など技術の発達による最近の防災気象情報の高度化は隔世の感がある。当時は大雨、洪水それぞれに対する注意報と警報に限られ、対象地域も大まかなものだった。現在は、特別警報が加わった5段階の警戒レベル相当情報が設定され浸水害と土砂災害に対する大雨警報、洪水警報の発表単位は細分化された8区域になった。地図上の1キロ四方の領域の各種災害発生の危険度分布(キキクル)が10分ごとに色分けして発表され、『線状降水帯』の事前予測、発生情報も合わせて発表される。当時と同様の豪雨が発生しそうになっても、危機の切迫状況が段階を刻んできめ細かく確認できる」
 --ハード整備の状況をどう見る。
 「庄内川の枇杷島地区、矢作川の鵜の首地区などでは狭窄(きょうさく)部の解消が検討され、庄内川とその派川である新川では洪水時の流量配分が見直されるなど、各河川で東海豪雨を踏まえた治水計画へと改定が進んだ。計画の基本となる河道の拡幅、掘削や堤防の強化なども行われており、整備が完了すれば洪水時の水位低下に大きな効果が見込まれる。名古屋市内では、地下に雨水を貯留するための大規模雨水幹線や雨水調整池などが整備されつつある」
 「ハード整備の完了には長い時間がかかる見通しで、気候変動の影響を考慮すると十分とは言い切れない。ハード面の強化を継続するとともに、ソフト面を含めた流域治水の推進が重要だ」
 --流域治水の進捗は。
 「東海豪雨は、現在の流域治水のルーツである『総合治水』のきっかけになった。河川や下水道での対策に加え、自治体は調整池や浸透ますなどを設置して、保水、遊水機能を高める流域対策に取り組んできた。一つ一つの施設の効果は小さいかもしれないが、流域全体で見れば大きな被害軽減につながる」
 「18年の西日本豪雨や19年の東日本台風など、大水害がたびたび発生し、気候変動の影響を実感する機会が増えた。ハザードマップの作成やその周知を通じた自治体の啓発もあり、住民の危機意識は高まっている。流域治水の考え方は確実に浸透し始めている」
 --今後の展望は。
 「流域企業のBCP(事業継続計画)対策は今後、本格化するだろう。企業は経済的な視点から頻度や影響度でリスクを測る。このため、影響度は大きいが頻度は低い想定最大規模降雨に対して作成された『洪水浸水想定区域図』は、活用しにくい面があった。近年、国土交通省が全国109の1級水系を対象に、豪雨の頻度ごとに『多段階の浸水想定図』を作成し、浸水深ごとの『水害リスクマップ』や、将来の治水整備による浸水状況の緩和効果を明示した。対象地域の特徴や土地の成り立ちなどの理解を前提とし、当事者の経験や勘に頼っていた状況に比べると、流域の企業やまちづくりを担う自治体も対策に着手しやすくなった」
 「25年前に破堤した新川はもともと、庄内川と五条川に挟まれた低地の排水を改良するための人工河川だ。50年、100年先を見据えた場合、都市機能の誘導・集積と併せて低地の土地利用は見直す必要があるのではないか」。

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