これまで職場や取材先で幾度も出会いと別れを経験してきた。最もつらいのは同僚や部下の退職を知った時だ。引き留めたい思いを胸にしまい、笑顔で送り出してきた▼仕事をしていると、〈なぜその道を選んだのか〉とよく問われる。学生時代の学びを生かしたいから、仕事内容に魅力を感じたから--理由は人それぞれだ▼音楽家が〈自分を音楽の世界へ導いた一曲は特別だ〉と語るインタビューに触れるたび、職種は違えど原点の力は共通すると感じる。私たちの仕事にもまた、初心を思い出させる記憶の旋律があり、暗いトンネルを抜ける小さな光になる▼転職の動機はさまざまだが、中には意欲を保てず辞めていく者もいて、一つの仕事を続ける難しさを痛感してきた。羽ばたこうとする人もいれば、地上にとどまることを選ぶ人もいる。道は違えど、自分なりの答えを探し続けているのだと気づかされる▼職業の選択は自由であり、悩み抜いた末の結論なら受け入れるしかない。仕事は常に順風満帆ではなく、荒波に飲まれることもある。そんな時こそ若き日の気持ちを思い返し、胸の奥にある響きを聴いている。