回転窓/プリクラ進化論「本物よりも自分らしく」

2025年10月21日 論説・コラム [1面]

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 1995年に登場したプリクラ(プリント倶楽部)が30周年を迎えた。開発のきっかけは、ゲーム会社の社員がこぼした「ゲームセンターに来る女の子に楽しめる機械がない」という一言とか▼ゲーセンの片隅に置かれた“思い出の自販機”は、女子中高生たちの心を射抜いた。撮って、シールにして、交換する。ささやかな儀式に、笑顔と友情、そして少しのときめきが詰まっていた▼浮き沈みを経ても「かわいい文化」の象徴として海外にも知られるプリクラ。技術の進歩で「写す機械」は「より魅力的に映す装置」に変わり、今やAIが最適な私を提案してくれる。自分らしさを引き出す演出装置と言えるかもしれない▼現実と少しの工夫がほどよく混ざり合い、プラスアルファの「かわいさ」が評価される時代。価値観の変化は自然に広がり、SNS全盛の今、プリクラは証明写真ではなく、自己表現の大切な一部となった▼プリクラの前でポーズを決める私を、気の利くAIが魅力的に仕上げる。「新たな自分」はどこまでが加工で、どこからが現実なのか--。そんなはかない錯覚を、きょうも静かにプリントし続けている。