重機ファンと一緒に業界を盛り上げる--。日立建機の公式ファンクラブが作った「重機好き」が集まるコミュニティーには、建設以外の業種や学生も多く参加している。ファン同士が業種や年齢を超え、親交を深め本音で語り合う。そんな中から、建設業界の課題解決のヒントが浮かび上がることも少なくない。同社は活動を通じて建設を仕事にする仲間を増やし、社会と会社の持続的成長を目指す。
2023年に社内初のビジネスコンテストで誕生したのが「日立建機公式ファンクラブ」。社会課題解決型コミュニティーとして、25年6月に始動した。
運営を担当するサステナビリティ推進本部CSR・環境推進部ESG推進グループの澤田遊次郎さん(部長代理)と、猿山未華さん(主任)が発起人。2人は設立に当たって、業界関係者約1000人のインタビューと、2884人へのウェブ調査を行った。全体の約43%が「重機が好きだから今の仕事に就いた」と回答。“重機が好き”をキーワードにしたコミュニティーの立ち上げを決めた。
同社ホームページに開設したファンサイトは9月26日時点で、約920人が参加している。うち6割が建設会社や販売代理店の社員、重機オペレーター、現場監督、整備士、運送業者など。残り4割は他業種で働く人や学生だ。企業として入会するケースも出ており、自社の広報活動や従業員のエンゲージメント向上などが目的という。
活動の中心は交流イベント。ファンが本音で語り合う中で、課題解決の糸口が見えてくることもある。法人会員とコラボレーションしたオフ会なども開催している。
新規のファン獲得に向け、メディアプラットフォーム「note」や音声アプリ「ポッドキャスト」などの活用を計画。21日に投稿を開始したnoteは、コミュニティーサイトで話題になった記事を抜粋して掲載する。ポッドキャストでは重機ファン2人のインタビューの配信を予定している。
コミュニティーサイトは閉じた空間のため、「自社情報などを直接発信するオウンドメディアを用意し興味関心を引きながら、ファンを増やしていきたい」と澤田さん。11月19日の「建設機械の日」前後には、独自の関連イベントを増やす。一見関係がないような団体や法人との「越境コラボ」も行い、さまざまな人たちを取り込む。こうした活動を通じて重機ファンの存在感を高め、文化活動に成熟していく考えだ。
ファンクラブ活動のゴールは「『社会』と『自社』の持続的な成長」。澤田さんは「日立建機独自あるいは他社と共同で、ステークホルダーが抱える具体的な課題を解決できれば、業界全体の労働環境が改善する。この業界で働きたい人がさらに増えるだろう」と語る。インフラを支える業界の課題を社会全体の課題と捉え、「活動を通じて業界で働く人のエンゲージメント向上や、労働環境の改善を進めたい。それが社会課題の解決につながる」と力を込める。
「同社の社員がオフ会やオンラインなどでファンと仕事の社会的意義を見いだし、エンゲージメントが上向くと考えている」(澤田さん)。部品メーカーなどパートナー企業は重機ユーザーを遠い存在と感じているという。澤田さんは「パートナー企業もユーザーやファンとつながることで競争力が高まるだろう」とみる。
建機業界全体の盛り上がりも欠かせない。同社が日本建設機械工業会(建機工)に対し、「いい重機」と読める11月19日を「建設機械の日」として記念日登録するよう提案。25年に建機工が設立35周年を迎えたことを機に、日本記念日協会の認定を受けた。
建機工は同23日に記念日制定イベント「KENKIドリームDAY」を、東京都渋谷区の渋谷キャストで開く。会員各社の建機グッズが一堂に集まるマルシェなども企画している。
「東京ドームを貸し切ってイベントができるほど建機ファンの文化活動が広く認知されるようになれば、世の中に大きなインパクトを与える」と澤田さん。同社の重機ファンを巻き込んだ活動は、業界に対する社会の見方を変えるようなチャレンジになりそうだ。