〈今日は麺類か定食か、どちらにしよう〉。庁舎やオフィスビルには福利厚生のため、たいてい食堂が入っている。先日、とある官庁施設で、職員と思しき数人がトレー片手にメニューを眺めながら、そんな相談をしていた▼外食店を指す「食堂」という言葉が広まったのは明治期とされ、各地で庶民においしい食事を提供してきた歴史がある。そばやうどん、カレーなどの定番に加え、地域の名物や旬の野菜、魚を使った料理も人気だった▼働くサラリーマンにとって、食堂は小さな憩いの場でもある。ところが平日営業だけでは採算が取りづらく、移動販売の弁当が人気を集めたこともあって、官公庁の食堂が相次いで撤退した時期もあった▼物価や人件費の高騰が重なり、小欄が利用する食堂のランチも、今や一般の飲食店と大差ない値段になった。早くて安くておいしい。そんな“食堂の黄金時代”ははるかかなたに遠のき、今は値段だけでなく味も問われる時代だ▼栄養バランスの取れた食事を提供してくれる食堂は、仕事の合間にそっと寄り添うありがたい存在。財布を気にせず気軽に利用できたあの頃が、少し恋しい。






