災害現場の切り札「スパイダー」/国総研が操縦訓練/能登でも道路啓開に威力発揮

2025年12月9日 技術・商品 [1面]

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 国土技術政策総合研究所(国総研)は1~5日、茨城県つくば市で4脚4輪走行が可能な多関節型作業機械(通称スパイダー)の操縦訓練を実施した。独立した4輪が生む高い機動力や着脱可能なアタッチメントを備え、災害現場での迅速な道路啓開などで活用が期待される。油圧ショベルなど通常の建設機械よりも高度な操縦技術が必要なため、NPO団体の運転技術者ら8人を対象に5日間の訓練を行った。
 会場は、つくば市にある日本財団(尾形武寿会長)の災害ボランティアトレーニングセンター。災害現場で建機を操縦する日本財団の職員らに対し、スパイダーの扱いに熟練したエキスパートが操縦技能を指導。現場で使用の可否を判断するための知見も伝えた。
 スパイダーはスイス製の多関節型作業機械で、独立した4輪が上下左右へ自在に動く。車体を最大2メートルほど浮かせた状態で稼働でき、岩やがれきを乗り越えて進むことが可能だ。高所から災害現場を俯瞰(ふかん)できるのも利点とされる。水深2メートルまでなら仮設桟橋を設置せず河川内で作業できる。先端部のアタッチメントも切断・破砕・掘削などに容易に交換可能で、多用途を1台でこなす。人手不足対策や人件費削減にも寄与するが、操縦には高度な走行・操縦技能が求められる。
 国総研は5月、能登半島地震の災害現場(石川県珠洲市)にスパイダーを投入。従来は2カ月以上かかると見込まれた約1・4キロの道路啓開を、2週間ほどで終えることに貢献し、一般的な建機が入れない難所でも性能を発揮した。
 現在、国内にあるスパイダーは国総研保有の1台を含め20台。国総研は日本スパイダー協会(五島満会長)や日本財団と連携し、今後も継続的に運転技術者を育成する方針だ。
 スパイダーは1台で多様な工事が可能なことから、建設現場で多様な活躍も見込まれる。訓練を主導した国総研の桐井健一主任研究官は「地方整備局ごとに1台、各都道府県も1台の保有」を期待。民間保有車両の災害派遣を進めるため、官民連携の強化が必要とみる。運転者の二次災害を防ぐため、遠隔操縦や自動運転への対応にも力を入れる考えだ。