回転窓/師走の薬局、見送った背中のその先

2025年12月17日 論説・コラム [1面]

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 毎週欠かさず見ているテレビ番組の一つが、金曜日の午後10時に放映されるNHKの「ドキュメント72時間」だ。一つの現場を3日間定点観測し、偶然居合わせた人たちの人生模様に迫る▼12日の放送回では、東京・秋葉原の老舗メイドカフェに密着した。男性客中心のイメージと違い、女性客が意外に多く、メイドに仕事の悩みを相談する社会人1年生や、子どもが生まれたことを報告する母親らのやりとりが放映された▼体調を崩しやすい師走の季節。小欄が立ち寄った薬局でも、人間ドラマが垣間見えた。多くの人で混雑する待合スペースで、サラリーマンらしき人が急に立ち上がり、スマートフォン越しに「本日は欠席して大変申し訳ございません」と、平身低頭の様子だった。大切な取引先との懇親会を、直前でキャンセルしたのだろうか▼処方箋を受け取ったその人は「少し飲んでから寝るか」とつぶやいたが、薬剤師から「水か、ぬるま湯で服用してください。室内での電話はだめですよ」と注意され、寂しそうに薬局を出ていった▼その背中を見送り、反面教師にせねばとの思いと、言い知れぬ同情が静かに交錯した。