シェルター・ワン/発災後48時間以内に快適な避難所開設へ、各地に大規模備蓄基地

2025年5月7日 企業・経営 [3面]

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 清水建設の社員が同社や海外の起業家支援制度を活用して4月に設立した防災スタートアップ「Shelter One」(シェルター・ワン)。発災後48時間以内に自立型の快適な仮設避難所が開設できるよう、全国の市町村と契約して支援するスキームを描く。市町村で異なる設営や運営を標準化、円滑化するための情報システムも構築。清水建設の協力会社ネットワークも生かし各地に大規模備蓄基地を整備し、資機材を一元管理していく。
 「体育館の硬い床に雑魚寝する環境は100年間変わっておらず、寒さ・暑さや衛生環境の悪化などにより災害関連死の発生も招いている」。代表取締役兼最高経営責任者(CEO)に就いた児島功氏は、シェルター・ワンの設立に至った避難所環境の問題点をそう提起する。ボランティアとして能登半島地震の被災地にある避難所で過ごした経験も大きい。
 参考にしているのが避難所運営で先進的なイタリアのモデルだ。トイレやベッド、キッチンなどの品質を標準化。セットにしてプライバシー空間が確保されたテントやコンテナの仮設避難所を設営する。各地に配置された備蓄基地から資機材をスムーズに持ち運べるようにして、発災48時間以内の開所を目指す。
 児島氏は2006年に清水建設に入社以来、国内外の建築現場で施工管理に従事してきた。「避難所の抜本的な環境改善と建設の仮設計画は親和性が高い。レイアウトの計画立案や施工の統括指揮、協力会社やメーカーらとのやりとりなど普段から行っている」。仮設避難所や大規模備蓄基地の整備では、清水建設の協力会社ネットワークも大いに役立つと見る。
 実際の避難所運営を円滑化するためにポイントになるのが平時からの訓練という。ボランティアをしていた避難所でトイレカーが来たものの、ライフラインとの接続方法が分からず約3カ月間使われない状態があった経験も踏まえ、訓練の必要性を訴える。3月20、21日には長野県諏訪市で初の訓練を実施。今後も各地で訓練を予定している。
 収益の確保は、市町村と人口1人当たり年200円程度の管理・訓練委託費で契約するスキームを想定する。
 当面は共同創業者で、日本マイクロソフト出身の中林秀仁取締役兼最高マーケティング責任者(CMO)兼最高戦略責任者(CSO)が培ってきたノウハウや人脈も生かし、事業をスムーズに実現していくための情報基盤「統合運用プラットフォーム」を構築。各地で急増する廃校の敷地を活用し、約100カ所程度の備蓄基地を分散配置したい考えた。
 「事業を行うというよりも新たな市場を作るというイメージ。結果的に国土強靱化にも役立つはずだ」と児島氏。防災分野の革新的なビジネスモデルによって避難所環境を抜本的に改善し、災害関連死ゼロに貢献する。