山梨県は5日、富士山の麓から5合目までを結ぶ新交通システムの導入を調査・検討した結果を公表し、ゴムタイヤで磁気マーカー誘導方式を用いる富士トラムが優位と判断した。麓から5合目は軌道法の適用を想定。麓から県内への延伸構想では一般交通との併用を見据え、道路運送車両法の適用も視野に入れる。動力源は蓄電池と水素を利用した燃料電池の併用が効果的としている。
導入コストは次世代型路面電車(LRT)と比較して5割以上の圧縮が見込める618億円と試算。急曲線・急勾配などの立地特性では日本独自の技術開発などにも期待する。整備スケジュールなどは未定だが、リニア中央新幹線の開業時期に合わせられることが望ましいとしている。
県は当初、富士スバルライン(富士山有料道路)にLRTを敷設する「富士山登山鉄道構想」を打ち出していたが、新たに鉄路を敷設することや概算で約1400億円に上る総工費などを理由に計画を断念。2024年11月に長崎幸太郎知事が「タイヤ式トラム」の導入に方針転換すると発表した。
システム選定では▽急曲線・急勾配▽緊急時には自動車が走行できる構造▽上空架線のない景観配慮▽排ガスを排出しない動力源-の4条件で比較検討した。結果、物理的なレールが必要ないことやゴム車輪での走行、電気と水素が動力源、1編成当たりの輸送力、安全性、導入費用、維持管理費用、省人力化などで磁気マーカー誘導方式の富士トラムが優位と判断した。
富士トラムを構成する要素技術でも連接車体や低床車体などは宇都宮LRTで実績があり、ゴムタイヤや屋根上機器の耐寒・大雪性能なども北海道など寒冷地での国内実績があるとしている。
動力源は蓄電池と水素利用の燃料電池を搭載・併用することで往復の運行に支障はなく、走行中の外部給電設備も不要。自動走行の実現可能性は山間部の運行のため、災害や緊急時に備え係員の添乗が望ましいとしつつ、GOA3(先頭以外に係員が乗務し避難誘導する)やレベル3(特定条件下で全運転操作を自動化、ただし要請に応じていつでも運転に戻る必要あり)に相当する条件付き自動運転の導入が考えられるとしている。
麓~5合目は軌道法を適用するが、ゴムタイヤで運行する新交通システムは公道を走行できることから、麓~県内は道路運送車両法の適用も視野に入れる。将来的には富士山とリニア中央新幹線山梨県駅(仮称、甲府市)、中央線甲府駅、県内各地などを結ぶ富士トラムネットワーク構想の構築も検討する考えだ。