東京都が新たな羅針盤を基にした都政運営に乗り出した。2025年度にスタートした都の総合計画「2050東京戦略」。50年代をターゲットに、ハード・ソフト両面で都市を進化させる政策を掲げた。鉄道や道路など交通インフラを拡充し、生活の利便性を向上。激甚化する風水害に対応するため調節池の整備を加速する。建築物の耐震化なども進め、大規模地震にも備える。
2050東京戦略はこれまで政策のベースにしていた「未来の東京」戦略を発展させた。未来の東京戦略は21年3月に策定。「東京は確実に、着実に良くなっている」(小池百合子知事)一方で、人口減少やテクノロジーの進化など変化のスピードはますます加速していることから、「変化、変革を先読みして持続的な成長につなげ、明るい未来を切り開く」(同)ため、新たな戦略を策定した。
2050東京戦略の推進に当たりポイントになるのが五つの視点だ。そのうちの一つが状況の変化に迅速に対応するという意味の「アジャイル」。未来の東京戦略でも取り入れた手法だ。都政策企画局の担当者は「戦略を作って終わりではなく、常に変化などにも対応しないといけない意識を持っている」と話す。
都は2050東京戦略に取り組むことで▽ダイバーシティ▽スマートシティ▽セーフシティ-の「三つのシティ」をさらに進化させる。ダイバーシティーは子育てや教育、女性活躍などソフト対策が中心。スマートシティーはまちづくりやインフラ、セーフシティーは都市の強靱化や防災などに関係するハード対策を含んでいる。目標となる50年代のほぼ中間年に当たる35年までの具体的な戦略も示した。
まちづくり関連ではターミナル駅周辺での魅力を引き出し、活気のある拠点の形成に取り組む。有楽町駅(千代田区)周辺では旧都庁舎跡地を官民連携で再開発。MICE(国際的なイベント)機能を充実し、回遊性も向上する。品川駅(港区)周辺はリニア中央新幹線の開通に合わせて駅周辺を再構築。国道15号の上空にデッキを構築する。
歴史や文化など個性が感じられるエリアでは民間事業者の先進的なリノベーションの取り組みを公募・選定し、整備費を支援する。
人中心のウオーカブルなまちへの転換も図る。高層ビルが立ち並ぶ新宿区西新宿では、関係者と連携し、楽しく歩ける都市空間の創出を目指す「西新宿地区再整備方針」の取り組みを推進する。銀座エリア上空を囲むように造られた自動車専用道路の東京高速道路(KK線)は、歩行者空間への転換に向けた事業を進めるとともに、積極的な情報発信で認知度を高める。
世界最大の都市圏を支える交通インフラも一層強化する。環状4号線など都市の骨格を形成する幹線道路の建設や連続立体交差事業による踏切の除去を加速。道路の混雑しやすい箇所を21年度の283カ所から35年度までに約30%減らす。30年代半ばまでに東京メトロの有楽町線や南北線、多摩都市モノレールの箱根ケ崎(瑞穂町)方面への延伸を実現する。
防災・減災に向けた取り組みでは、降雨量の増加に対応するため調節池の整備を急ぐ。35年までに新規事業化する調節池の累計容量を約250万立方メートルに設定した。気候変動に伴う海面上昇に対しては、防潮堤のかさ上げを推し進める。
下水道は30年度までに36地区で浸水防止のための工事を完了。以降も下水道増強幹線、貯留施設の建設を着実に進める。防災対策のレベルを上げる「TOKYO強靱化プロジェクト」は気候変動の深刻化などを踏まえ、必要に応じてアップグレードする。
首都直下地震をはじめとする大規模地震への対策も強める。震災時に緊急物資輸送などで活用する特定緊急輸送道路の沿道建築物の耐震化を促進。35年に総合到達率100%を達成する。木造建築物が密集し、甚大な被害が想定される「整備地域」の不燃領域率は21年の65・5%から30年度に70%に引き上げる。
電柱倒壊による被害を低減するため、無電柱化もスピードアップする。大田区を基点に世田谷や杉並、北、足立、葛飾の各区を経由し、江戸川区へとつながる環状7号線の内側エリアの無電柱化を35年までに完了する。
都はまちづくりや防災を含め、ハード・ソフト両面でAI技術など新たな手法も積極的に取り入れ、徹底的に活用することで都民の生活の質を高める。都政策企画局の担当者は「知事が掲げる『全ての人が輝き幸せを実感できるような都市』の実現に向け、いろいろな工夫をしながら取り組みたい」と話す。