◇先端技術で低コスト、高効率化
東急建設が初となる「スマート林業」の実証実験を東京都あきる野市で進めている。本業の建設事業で培ったノウハウを活用し、林業経営の効率化に貢献する。最新の高性能重機や先端技術を用いて所有者土地の境界を明確化し樹種情報・傾斜分布情報も取得。作業道の整備や列状間伐作業を低コストで効率良く実施する。整備した森林空間は環境教育など地域や社会に貢献する取り組みで有効活用していく。木造・木質建築事業とのシナジー(相乗効果)創出も見据える。
スマート林業は先端技術を使用し、遠隔操作によって生産性向上を目指す手法として、林野庁が推進している。東急建設によると林業業界は小規模事業体が多く、地権者1人当たりの保有面積が10ヘクタール未満の林家が9割を占める。生産性向上が喫緊課題で、単独では効率的施業の展開が困難な状況だ。
東急建設は21年度に社内を対象にした新規事業アイデアコンテストで、林業経営の課題解決に貢献する「フォレストアクション」を採択。建設事業で培ったノウハウや先端技術、高性能重機などを活用し、木材流通の川上段階に携わり、良質な森林空間の創出や保全に取り組む。
実証実験は都の「森林経営効率化支援事業」を活用し、6月に同市小和田・戸倉地区で本格着手。30年5月末まで展開する。実験で明らかになった成果や課題を踏まえ、将来は各地にスマート林業の対象エリアを広げたい考えだ。
準備や計画の立案段階から先端技術を活用している。地権者所有土地の境界を把握するため、GNSS(全球測位衛星システム)を用いて山林内境界を明確化。24年3月の完了時点で約40ヘクタールの範囲で境界を明確にし、地権者は約40人だった。
ヘリ型ドローンを用いて樹種情報や傾斜分布を取得した。そのデータを活用して効率の良い作業道計画を立案し、列状間伐の計画作りに役立てた。先端技術とデータに基づく計画により高性能重機を使用する効率的施業が可能になった。今回の実証では複数の工程を1台でこなす重機を使用し、施業効率を上げていく。
同社価値創造推進室イノベーション推進部新規事業創出グループの安井元氏は、スマート林業の実証を「建設業の調整力が林業にも生かせる」と胸を張る。施業に当たっての地権者との合意形成では、数々のプロジェクトを経験してきたゼネコンならではの信頼感を感じたという。
安井氏は「これまで建設業界では木材を無駄遣いしていた」とも指摘する。同社はゼネコンとしては珍しい木造一戸建て住宅を40年以上手掛け、18年からは中大規模の木造建築に本格参入した。現在は木造・木質建築事業ブランド「モクタス」を展開中。「脱炭素社会に向け建築物への木材利用は加速している」として、スマート林業事業と同社が取り組むさまざまな木造・木質事業の連携も視野に入れる。
今回の実証で搬出した材木は「多摩産材」として製材所などへ流通させ、建設現場での活用を広く促進する計画だ。安井氏は「あきる野市は東京の玄関口として、材木流通や今後の森林経営展開に適した立地」と話す。
林業を核に担い手創出も含めた地域活性化にも貢献する。整備後の森林空間を環境学習の場として活用する構想も描く。