回転窓/文鎮と経験則の関係とは

2025年10月28日 論説・コラム [1面]

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 仕事をしていると蓄えた知識や積み重ねた経験が自分を助けてくれる瞬間がある。経験則に従って行動すれば大きな間違いは回避できる。今まではそうだった。でも、それがずっと通用するかどうかは正直言って分からない▼ベテランの話は重みがある。たしかに。けれど時々、その重みは“鉄アレイ”というより“文鎮”に近くなる。机の上では頼りになるけど、持ち歩けば無用で役に立たない荷物でしかない▼「俺の経験ではね」と始まる言葉は、たいてい時代遅れの取扱説明書みたいなもの。10年前、20年前のパソコンのマニュアルを堂々と渡されても、もう電源の入れ方から違っていたりする▼もちろん、経験が知恵になる場面もある。でも往々にして、「自分の成功体験」という名の土産話を“普遍的な真理”として手渡してくる。それを受け取る若手の心境は、修学旅行のお土産で木刀をもらった時のようだ。正直、使い道も飾る場所にも困る▼経験が未来を照らすこともある。でも過去の武勇伝を繰り返すだけなら、照らしているのは自分だけ。若手としては「ライトの向き、逆ですよ」と心の中でつぶやくしかない。