人呼んで「仕事猫係長」こと佐藤慶祐さんは、あふれんばかりの情熱を抑えきれず、2025年春、四半世紀に及んだ国家公務員生活に区切りをつけ、「くまみね工房」の番頭役へ思い切って転身した。ヘルメット姿の猫が「ヨシッ!」と指さし確認するイラストで知られる「仕事猫」は、22年に国土交通省関東地方整備局とのコラボレーションを開始。翌年には着ぐるみも登場し注目を集めた。このコラボを仕掛けたのが佐藤さんで、自ら「異端の公務員」と語るほど、珍しい経歴を歩んできた。
一般職の事務官として運輸省(現国交省)に入った佐藤さんは、「事務官ながら技術、研究、現場対応が混じった独特のキャリアだった」と公務員時代を振り返る。人工衛星「きずな」を使った離島の遠隔通信研究、羽田空港D滑走路整備、藻場造成実験など、多様なプロジェクトの記憶がよみがえる。
中でも「忘れられない思い出」が南鳥島整備への従事だ。国境地帯特有の張り詰めた空気の中、状況次第で命に関わる最前線の厳しさを痛感した。一方で、自衛隊や気象庁など駐在機関の職員との交流は、何物にも代え難い貴重な経験であり、楽しみでもあった。
広報に初めて携わったのは京浜港湾事務所で「横浜開港祭/川崎みなとまつり」を担当した時だった。同事務所は直轄港湾事務所として初めてツイッター(現X)公式アカウントを開設し、1カ月で10万アクセスを記録。「東京湾大感謝祭」では人気キャラクター・くまモンの誘致を実現するなど、広報業務で抜群の存在感を示した。
そんな時、イラストレーター・くまみね氏の「仕事猫」に出会い、その独特の魅力に一目で心を奪われた。ネットミームとして爆発的な人気を得つつ建設現場の空気もまとい、広報に最適だと確信した。ただし、コラボ実現までには予算確保や上層部の理解と説得、他省庁の活用事例調査など、多くの、そして高い壁が立ちはだかった。
約2年の調整を経て、ようやく広報費として条件付きの支出が認められた。「担当者が変われば使われなくなるのでは」との懸念がくすぶる中、長期運用できる仕組みづくりにも力を尽くした。
初弾の工事安全啓発ポスターは発売直後に売り切れ、続いて製作した着ぐるみは「仕事猫」らしさを追求した自信作。軽量で動きやすく、サバトラ柄を左右非対称にするなど細部の作り込みにも徹底してこだわった。
国交省を離れた今は番頭としてくまみね氏を支える。「行政で培った段取り、調整、広報力をキャラクター知的財産(IP)の世界で生かしたい」というのが今の思い。唯一の社員として全国展開のコラボやグッズの裏方を担い、将来は“くまみね工房”をさらに大きく羽ばたかせたいと情熱を燃やす。






