商習慣を変える3-標準労務費始動・2/「これだけ必要」根拠明確に

2026年1月20日 行政・団体 [2面]

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 ◇見積もり交渉、原価把握の必要性増す
 「労務費に関する基準(標準労務費)」は、技能者の賃金原資となる労務費を確保しようとする建設会社にとって、価格交渉の武器となる。標準労務費の考え方や工種・作業別の「基準値」を参照しながら、労務費を内訳明示した見積書を作成し、必要額を確保する。ただ、扱い方には注意が必要のようだ。日本型枠工事業協会(日本型枠)の後町廣幸専務理事は「喜んでばかりはいられない。標準労務費は“もろ刃の剣”だ」と指摘する。
 改正建設業法で標準労務費を著しく下回る額の見積もりや値切りは禁止となる。労務費の水準はある程度固定化され、下請や末端の技能者までそのまま行き渡らせなければならない。これが何を意味するか。昔のように丼勘定で見積もって契約し、残った分でもうけを出すやり方は通用しなくなる。やり方を変えずに契約した結果、労務費以外の部分に、もうけはおろか、会社の経費も残らなかったら、後の祭りだ。
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 後町氏はこうした懸念を踏まえ、「適正な請負金額はいくらなのかを透明化しなければならない」と主張する。型枠工事で言えば、躯体種別や部位別の歩掛かり、材料費、運搬費などを自社で把握する。工事原価を正確に算出し、元請などに「どうしてもこれだけは必要だ」と説明できるだけの明確な根拠をそろえる。その段階で、ようやく価格交渉に入る準備が整う。
 まずは改正業法に沿って標準労務費に基づく見積書を作成し、元請などに提示する。これを起点に、交渉の経緯を記録に残す。費用内訳ごとの原価が把握できていれば、見積もり内容の都度の精査に役立ち、「さまざまなところに競争力を生み出す余地が出てくる」。
 図面を見て建物形状が複雑でなければ歩掛かりを良くでき、型枠材の転用が効くようなら材料費を抑えられる。施工上の工夫や無駄削減の効果を正確に反映し、提案することが可能になる。労務費が減額された場合などの経緯を、国土交通省の建設Gメンが円滑に確認することにもつながる。
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 日本型枠が2018年から運用する見積書作成のウェブシステムは、必要なデータを打ち込めば見積額を自動算出でき、労務費内訳などを記載した見積書作成の省力化に寄与する。法施行を前にアクセス数は飛躍的に伸びているという。システムを用いて標準労務費をベースに工事原価を計算し、その上で自社として必要な経費や、適正な利益をしっかり確保する。こうした正攻法を貫き、「働いている職人さんの賃金に還元しよう。そうしなければ会社を続けられないのだから」と後町氏は呼び掛ける。
 建設工事の1次下請は元請に対し受注者でありながら、2次以降の下請を抱える場合は発注者にもなる両義的な立場にある。標準労務費の運用を契機に、詳細な歩掛かりなどの積算根拠を持たない2次下請などをサポートする1次下請も出てきている。労務費や経費の内訳を明らかにして末端から積み上げるからこそ、元請などに提示する見積書に正当性が生まれる。自らの商習慣を先んじて変える積極的な動きが、業界全体の変革をけん引する。